IEレビュー303号 特集テーマのねらい

 IE活用の実例とIEスタッフの育成・伝承

1 特集テーマのねらい

IEは産業革命にともなう分業化、機械化の拡大による製造現場のシステム化とともに基礎となる種々の手法が開発され、体系的に確立されてきた。テーラー(F.W.Taylor)の時間研究や、ギルブレス(F.B. Gilbreth)の動作研究を代表とした手法は、産業構造の変化に合わせ発展・進化しながら、製造業からサービス業、医療・スポーツの世界へ適用分野を拡大してきている。
一方、早くからIE 導入を行った企業・分野では、IE専門スタッフにより行われていたIE活動も、時間とともに現場主導の改善プロセスに中で当事者自身が手法を使い熟し、成果をあげている事例が数多く見られるようになってきた。平成27年度の「ものづくり白書」によると、わが国のものづくり産業が直面する課題として、「労働生産性の向上」が提起されおり、その打ち手として、①自動化・機械化、②生産設備、工程の改善、③IT化、④生産管理が大きな比率を占めているが、これらの施策を進める上でIE手法を用いた現状分析は極めて重要であり、成果を最大化するためには必須であると考えられる。
本特集号では、企業規模、業態の枠を超えて、IEの有用性を理解していただき、IEの手法と考え方を教育・実践していくことの重要性をあらためて訴えていきたい。

2 記事構成

本特集号では、例えば以下のような内容に関連する事例を取り上げ、これからのIEの役割やIErの育成・技能伝承の課題を探っていくことをねらいとしている。
①IErの育成と現場作業者へのIE教育
②IE導入から定着・発展期への変遷事例
③現場でのIE活用を促進するための支援策
④固有技術とIEの活動の融合
⑤改善活動導入期における5Sの有効性
(1)論壇
早稲田大学の吉本一穗氏に「IE手法・改善活動の教育/普及に携わって」と題して執筆していただいた。大学のIE教育をめぐる環境は1990年代からの学科見直しにともない、科目・演習も減少など大きく変化している。また、製造業においてもIndustry4.0、Society5.0による情報連帯やロボットの活用などIEの適用対象が大きく変化してきている。その中で「無駄を顕在化させて、資源を最小化することでその価値を最大限に引き出す」ことが有用であり、今後も欠くことのできないものであるとの立場から、IEの教育の現状・課題を教育現場の実例を交えながら論じている。今後のIEr育成に関して、学校教育と企業教育の2つの視点で、「IE手法の近代化」「改善活動の標準化」などの取り組みと、サービス分野など適用分野拡大に向けた提言をいただいた。
(2)ケース・スタディ
①JFEスチールの上田修造氏に「製鉄所におけるIE活用と伝承」と題して執筆いただいた。世界有数の規模を誇る製鉄所におけるIE活用の変遷が、適用事例とその時代背景、要請とをあわせて紹介されている。1970年代の大規模製鉄所建設時は、生産するための諸元設計、続く高度成長期には生産能力の増強対策、その後のオイルショックや新興国の台頭が始まった増産停滞期はコストダウンや大規模な省人活動というようにIE適用課題が変化する中で、筆者の40年に渡るIErの経験を通して、改善活動に対するIE専門スタッフと製造部門の取り組みを教育、実践の両面から論じている。特に「IEスタッフへの期待」は、若手IErに目を通してほしい内容である。
②AGC旭硝子の篠田正行氏、内田耕平氏に「『設備中心型ライン』でのIE活用とIEr育成」と題して執筆いただいた。生産現場は、設備が生産性を大きく左右するため固有技術が大変強く、以前にはIEを知っている従業員も極めて少ない状況であった。10年前より「AGCグループ改善・革新活動」を展開し、全員参加の改善の仕組みや対象者別IE教育など6つの活動の中から、IEが固有技術をどのように変化させ、IErをどのように育成したかを分かりやすく紹介している。特に、IErの育成では、日々の改善実行とより大きな課題発掘と解決を目的とした2つのプログラムを設定し、10年間で約1,000名のIE人材を育成した活動は、広く参考にすべき内容である。
③LIXILの加藤昌彦氏に「『PL-up活動』と『PL-up実践塾』による“解くべき価値のある問題”への追求と取り組み」と題して執筆いただいた。サプライチェーンを全体最適で構築することが求められる中で、現状の悪さ度合いを分析して「工場の解くべき価値ある問題」と「あるべき姿」を正しく定量的にとらえて強い現場を作っていく活動を「PL-up活動」として全工場を対象に推進している。また、活動自体を牽引できる人材も必要であり、そのために「PL-up実践塾」という仕組みを構築している。IEをベースとした改善活動とスタッフ育成という両輪を同期化させながら進めている点は非常に参考になる。
④NECエナジーデバイスの八木沼昭氏、中島隆弘氏に「EV用電極工場立ち上げ奮闘記」と題して執筆していただいた。出身事業体、保有する技能も経験も異なるメンバーが集められた職場では、統制の取れた現場管理、職制と現場の信頼関係構築、そして設備の使いこなしが課題であったが、現場マネージャーが主体となり、管理・意識・行動改革を実行し量産体制を構築した事例が紹介され、奮闘の様子が伝わってくる。自動化された生産ラインでは、設備中心の改善による貢献が大であると見られがちだが、「実は人が主役」の生産革新の効果が絶大であることを強く感じたと述べられている点は大いに考えさせられる内容である。
⑤三木ベルテックの安部剛氏に「QCD向上と人材育成」と題して執筆いただいた。同社は、社会構造の変化による多品種少量、短納期化へ対応すべく生産革新活動をスタートさせ、その中で「商店主制」いうセル生産制度を導入し、納期達成率や在庫削減で大きな成果を上げてきている。商店主制導入後の課題と改善事例を分かりやすく紹介していただき、その後の多角化や多能工化への取り組みとあわせて、地道な改善活動の大切さを伝えてくれる内容である。
⑥きむら5S実践舎の鈴木浩也氏に「5Sで生み出す作業改善」と題して執筆していただいた。5Sを初期の改善活動における有力な手法として、その導入事例を用いて分かりやすく紹介している。活動が定着して成果を上げていくまでには、できる人が徹底して取り組む姿勢を貫くことが大切であると論じている。人の情熱が周囲を変え、社内が変化して効果を生み出した事例は、改善活動導入を考えている企業に参考にしてほしい内容である。5Sにより職場環境を整えることで、本業の固有技術も活かされ、企業の体質強化に繋がるとの考えは、5S導入の新たな効用として興味を引く内容である。
⑦トヨタ車体の左正昭氏に「からくり改善®活用による現場力向上の取り組み」と題して執筆いただいた。同社にて2009年から本格的に実施してきた「からくり改善」の具体的な進め方や、からくり改善を手段として進めてきた人材育成の内容を紹介いただいている。からくりの標準化をめざした「からくりNavi」の開発や、体験道場としての「コロンブスの部屋」、改善した場所を見える化する「からくり改善マップ」など、具体的な事例で解説いただき活動を進める上で参考になる。
(3)プリズム
日本経営工学会企画行事委員長の斎藤文氏に「大学は社会が求める人材をどう育成していくのか」と題して、2017年11月3日に開催された「日本経営工学会秋季大会」産学連携セッションでの議論の内容について紹介していただいた。

3 おわりに

近年、IoTによる情報連帯やビックデータの活用、ロボット・AIによる無人化技術などが加速度的に進歩している。
その一方で、19世紀の産業革命を起源とするIEは、生産の3要素である「人」「設備」「もの」を対象に、時間研究や動作研究を主な手法として、現在でも現場で活用されて続けている。IEを取り巻く環境が大きく変わりつつある中で、これまでのIE活動を振り返るとともに、新たなニーズに応えられるようにIEがどのようにあるべきかを考え、IErを育成していくことが、我々に課せられた大きな課題である。
読者の皆さまが、今一度自分たちの歩みを振り返り、今後の役割を見つめ直すために、本号が少しでも貢献できれば幸いである。
(企画担当編集委員/小堀 敏雄)