IEレビュー304号 特集テーマのねらい

 モノづくりにおけるIT活用

1 特集テーマのねらい

製造業やサービス業の現場では、ITの活用がさらに進展しつつある。中でもIoT(Internet of Things)の利活用への関心は高い。IoTは様々なモノがネットワークにつながり、収集されたデータが他のデータとともに、新たな価値を生み出す仕組みである。モノづくりの領域では、つながる工場の実現に向けた様々な取り組みが行われている。さらに経済産業省はコネクテッド・インダストリーを掲げ、国家的にも活動が進行している。
IoTの利活用が拡大している背景として、低価格・小型のセンサーやカメラなどで現場のデータを自動で大量に安価に収集できるようになったことがあげられる。稼働状況や品質などの情報をリアルタイムに収集し、設備や人、在庫などのムダを見える化することで、改善のサイクルを高速に回すことができる。
また、収集した大量のデータをビッグデータ技術やAI(人工知能)などで高速に処理し分析することで、製造品質の異常をいち早く検知する、さらに、そのような異常が発生する前に兆候を予知するなどが期待される。
IoTを含むITを活用するベースには、IEの見方や考え方がある。生産性や品質に対する強い意識、製造現場の的確なオペレーション遂行力、持続的な改善活動が日本のモノづくり競争力の源泉になっている。さらなるデータ活用の工夫を通して、現場改善の加速を期待したい。
本特集では、モノづくりにおけるIT活用について、各社の取り組み状況を紹介する。

2 記事構成

(1)論壇
名古屋工業大学の荒川雅裕氏に「中小規模企業における工場のICT・IoT化の課題と対策」と題して執筆していただいた。大手企業ではICT・IoTシステムの導入が加速されている一方で、中小規模企業では資金面や人材面の制約から導入が遅れている現実がある。筆者は、中小規模企業を対象に、工場内の情報システムの導入や自動化に関するアンケート調査や、現地での聞き取り調査を実施した。その調査結果をもとに、中小規模企業における自動化やICT・IoTシステムの導入の問題点や成功の要因の特徴を示している。成功している工場の特徴として、同一品種や類似製品による中~大量生産の生産工程である、自社内の装置やソフトウェアの改良・拡張を社内技術者が行っている、工場内で製造と設備の担当者が一体になって継続的に改善に取り組んでいる、など人材面の特徴が浮き彫りになってきている。これらの成功企業の特徴を踏まえて、中小規模企業が製造現場に自動化やICT・IoTシステムを低コストで短期間に導入・運用する取り組み方法を提案いただいた。
(2)ケース・スタディ
①オムロンの井上真氏に「IoT活用による超多品種少量生産のIE 改善」と題して執筆いただいた。同社は制御機器を生産している。段取り替え回数が多い超多品種少量生産ラインを対象として、IoTを活用したムダの見える化に取り組んできた。現場に存在する大量の情報から必要な情報を素早く取り出して分析する、そして、ロスを見える化して改善施策を講じることで、生産性を大幅に向上することができた。「IoT技術の活用は、長い時間をかけて現場のデータ取りを行うステップからIE技術者を解放する。IE技術者は改善のアイデアを考えるなど創造的なステップにより多くの時間を割くことができるようになる。このことは、データから様々なことを読み取るスキルを持つ高度なIE 技術者を要求する」との考察は、IoT活用の実体験を通して得られた貴重な主張である。
②大和ハウス工業の戸井武氏に「生産現場のIT利用による業務改革」と題して執筆いただいた。同社は建築の工業化に取り組み、戸建やアパートなどの鉄骨やパネルを工場で生産している。今まで工場内において、工程単位の生産計画・実績の見える化や、生産進捗のリアルタイム把握が難しいなどの課題があった。これを解決するために、作業者がタブレット端末から図面を参照できる環境を整備し、合わせて生産進捗状況を把握するIT基盤として製造実行システム(MES)を構築した。さらに、全社の営業、設計、生産、施工、アフターサービスの各部門が同じデータベースを利用して、一気通貫で標準化された業務を行う環境を構築しようとしている。本論文ではMES構築のステップについて改善事例を交えて説明しており、同様の課題に悩んでいる企業にとって参考になる事例である。
③積水成型工業の澤田篤伸氏、阪上俊之氏、積水化学工業の阿部高士氏に「スマートデバイス活用による製造現場の業務改善」と題して執筆いただいた。同社は樹脂成型品を生産している。製造現場において情報システムに製造情報を入力し、そのデータを分析する業務の改善に取り組んできた。例えば、従来は現場で各生産設備から各種データを確認して手書きで紙に記録し、その紙を見ながらデスクトップパソコンにデータを入力していた。改善施策として、タブレット端末を活用することで紙への転記をなくした。また、樹脂の板やシートなどを生産しているが、大型製品のため梱包ができず、製品にラベルやシールを張りつけることもできず、現物管理が難しいという課題があった。改善施策として、製造ロットごとにQRコードを印字した棚紙をロットの変わり目の位置に挟み込み、ハンディターミナルでQRコードを読み込むことで在庫情報を可視化した。いずれも地道な取り組みであるが、同様の課題を抱えている工場にとって参考になる事例である。
(3)テクニカル・ノート
慶應義塾大学の里宇明元氏に「動きを診る:リハビリテーション医学における動作分析」と題して執筆いただいた。筆者は医学部の臨床医であり、障害を持った人々にリハビリテーション治療を施したり、障害の予防・最小化に取り組んでいる。医学的リハビリテーションの主な対象は「動きの障害」をもたらす疾患や病態である。リハビリテーション医療者はIE手法の「動作分析」を日常的に行っていることに気づいたとのことで、IEとリハビリテーション医学との接点について論じていただいた。臨床医学の中にもIEの考え方が活かされていることに気づく興味深い事例である。
(4)プリズム
インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブの高鹿初子氏に「つながる工場実現をめざすIVI」と題して執筆いただいた。インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)は、人を起点としたIoTで、つながる工場を実現するための企業連携の仕組み作りをサポートしている。会員数は現在600名超である。改善する業務のテーマに応じてワーキンググループを作り、企業間で共通している課題に対して、IoTの活用などで効率化を図るシナリオ作りの活動が行われている。IVIのホームページには、活動状況の他に、公開シンポジウム(活動の成果を会員以外とも年2回共有)などの情報が公開されているので、参照いただきたい。

3 おわりに

ITやIoTに関する記事は、本誌294号(2016年3月発行)や297号(2016年10月発行)にも掲載されているので、合わせて参照いただきたい。
世の中全般に、ITを導入すれば、生産性が容易に改善すると解釈される傾向にある。しかし情報システム単独の導入では、情報伝達リードタイム短縮による従来プロセス(仕組み)の強化に結びつく成果は得られるとしても、大きな変革にはつながらないことが多い。情報システムの役割は、あくまでも仕組み(業務プロセス)を支えるものである。仕組みの変革と情報システムの変革が同期することで初めて大きな効果を生む。一方で、情報システムは仕組みを固定化する側面もあり、仕組みの変革を阻害することもあり得る。また、社内には生産だけでなく、経理、営業、調達、開発設計など業務単位に情報システムが存在している。生産の中でも製造ショップ単位に異なった情報システムが存在することもある。これらの情報システムを連携させることで、より大きな効果を生むと期待されるが、その連携を阻害する大きな要因の1つは、コード体系が業務間で共通化されていないことがあげられる。コード体系が異なるなど標準化が進んでいないことは、サプライチェーンでの企業間連携でも障害になることが多い。
上記のような課題を解決するために、情報システムを担当する者は、優れた仕組み(プロセス)を設計する者であるべきであろう。情報システム担当者にもIEの素養を持った人が任命されることが期待される。IEに精通した人が情報システムにも精通することも今後重要になってくるであろう。本特集がIErがIT活用における自らの役割を見つめ直すことに、少しでも貢献できれば幸いである。
(企画担当編集委員/日本電気・榎本 昌之)