IEレビュー305号 特集テーマのねらい

 これからのIE活動を進めるための人材育成

1 特集テーマのねらい

これまで多くの製造企業では、コスト競争力を求めて中国や東南アジアなどを中心とした海外への生産移管を進めてきた。その後、グローバルサプライチェーン全体の効率化を視野に入れた最適地生産を行う企業も増えてきており、現在では、日本への生産回帰が一部で継続的に見られるようになった。
日本国内の状況を見てみると、人材不足がクローズアップされている。学卒新人採用では、2012年ころまで続いていた就職氷河期が一変し、2018年は「売り手市場」となっている。これは少子高齢化にともなう人材不足が顕在化しているためであり、製造業の国内回帰の動きと合わせて、製造業での人材確保が大きな課題として浮き彫りになっている。
現状の対策としては、雇用延長などのシニア層の利用を始めとした多様な雇用形態の推進が多いが、今後の取り組みとしてはIT活用による効率化やロボット導入による省人化など、先端技術の活用に注目している企業が多い。「2017年度版ものづくり白書」では、IoT活用に積極的な企業グループほど現場力も向上していると指摘しており、IoTを活用した現場改善が今後の1つの流れとなると予想できる。
一方、2018年1月10日づけの日本経済新聞にて、日本企業の社員の再教育の負担額は最下位との記事が掲載されている。「モノづくりは人づくり」ということで人材育成の必要性は感じながらも、十分な教育投資ができていない現場の状況が見て取れる。
しかし、現場を支えるのはやはり人であり、現在の事業環境の中での人材育成には2つの方向性が考えられる。1つは、IoTに代表される先端技術を活用した現場改善を推進する人材を育成という方向性である。もう1つは、OJTなど業務の中でIE人材を育成し活用するという方向性である。
この2つの方向性を踏まえつつ、人材育成に力を入れている企業に着目し、①現場での改善事例を通して人の意識が変わり成長した事例、②人材育成カリキュラムの変遷と今後の方向性、の2つの視点からの具体的な事例を紹介いただくことで、あらためて生産現場の改善を推進する人材の育成について、そのあり方を考え、重要性を訴えていきたいと考え、本号を企画した。

2 記事構成

(1)論壇
高砂香料西日本工場の川村秀樹氏に、「これからのIE活動を進めるための人材育成」と題して執筆いただいた。IoT導入によるIE 活動の変化やIE教育のあり方が述べられている。
日本のものづくりの強さは、製造以外の部門も現場視点や現場感覚を身につけていることによって生じる現場力が源泉となっており、特に現場の「モラール」が生産性向上の鍵になっている。現場力やモラールには現場の人の育成が大切であるが、その際にOJTにIEを組み込むのが特に中小企業にとっては進めやすい。その際IE教育を効果的なものにするためには、意欲のある受講者の選定が大切であり、例えば、5S活動を社内で展開していく中で人材の見極めをすることができる。
ものづくりを取り巻く環境が変わっても、現場を動かし改善していくのは人やモラールであることは変わらず、IEを進める人材育成の基本も従来とは変わるべきではないという論旨は、今後のIE人材育成に対して1つの大切な指針を与えている。
(2)ケース・スタディ
① i Smart Technologies/旭鉄工の木村哲也氏に「IoT活用による社内変革と人材育成~ 80ラインの出来高を34%向上し年間1 億円の労務費節減~」と題して執筆いただいた。中小企業でも実施できる現場でのIoT活用と、これを起点とした現場改善の具体例と成果がまとめられている。
現場問題点の洗い出しに際して、トヨタ生産方式で使われる「生産管理板」をどうやれば負荷を掛けずに作成できるか、という考えが旭鉄工改善のきっかけとなった。データの取得を自動でできないかと考え、汎用センサーと無線データ転送を使った「サイクルタイムモニター」というシステムを手作りした。これを活用し、毎日現場で社長も参加する「ラインストップミーティング」を開催し、設備停止の問題を1つずつ解決していった。
IoT化により小さな改善でもすぐに成果が確認できるため、改善の積み上げが進み、生産性改善やコスト削減という大きな成果、さらには現場人材の育成や意識改革・風土改革につながっている。
「データで人の力を引き出す」という考え方に基づき簡単な仕組みで安価にIoTを構築し、成果に結びつけている点は、現場へのIoT導入を検討している多くの企業にとって参考になる。
②東芝の伊藤由仁氏に「部課長向けIE研修~課題発見力とIE人財活用をねらった気づき研修~」と題して執筆いただいた。2005年から継続育成しているIEインストラクターをさらに活躍させること、現場での課題発見力を強化することの2つをねらいとして実施している部課長向けIE研修の紹介である。
IE研修と言いつつ、IE知識の教育は多く行わず、現場見学、現場実習、グループ討議や講話を多用し、それぞれでの気づきや研修期間中の人脈形成を主なねらいとしている。
最終日に役員の前で実施する決意表明を起点として、研修後に自職場のIE人財を活用した改善活動体制構築、そして、改善実行までの流れを受講生に示しながら、研修での学びを改善・改革に繋げる取り組みは、企業内研修のモデルともいえる。
半導体から発電設備まで多様なモノづくりをしている拠点から受講生が集まり議論していく中で、モノづくりをより俯瞰的に見ることができるようになる点は参考になる。日本IE協会としても、多彩な受講生が刺激しあう異業種交流の企画のベースになる研修紹介である。
③成蹊大学の渡邉一衛氏と福島大学の筧宗徳氏に「IEr養成講座の変遷~日本IE協会におけるIEr養成講座の20年を振り返る~」と題して執筆いただいた。日本IE協会で20年間実施してきたIEr養成講座の変遷をまとめた内容である。
まず1988年に初級・中級・上級の3段階のIEr養成コースを設計した。動作分析と工程分析を5~6名のグループで分析・検討していく初級IEr養成コースの流れは、現在の研修にも踏襲されているが、一方、より幅広い内容とした中級コースは、応募人数が集まらず未開催、工場レベルの問題解決力を身につける上級コースは、1回の開催のみとなった。これを受けて2002年に全体を「入門コース」と「実力養成コース」の2コースにまとめ直した。
年2回開催する「IEr養成入門コース」では小演習を多用し、基礎的なIE 分析手法を4、5名のグループに別れて学んでいく。
また「IEr養成実力養成コース」では、IEの理論体系から入り、IE手法、生産管理の技法を学び、現場改善における意思決定力向上をねらっている。研修のねらい、コンテンツ、日数など研修の形を試行錯誤してきた様子が分かり、現在の研修には実践的IEr育成方法の1つの雛形を見ることができる。
(3)プリズム
トヨタ紡織の高瀬成幸氏に「人材から人財への深化」と題して執筆いただいた。2011年に設立された「技能育成センター」での教育内容を紹介している。
5つのミッションである、(1) 安全行動のできる人財の育成、(2) 強い管理・監督者の育成、(3) 極めたモノづくり、(4) 保全力の強化、(5) 核となる若手人財の育成、に対してそれぞれ実施している教育内容を紹介している。
入社から退職までのライフワーキングプランの各段階に対して準備された研修を通じて「人材を人財に育てる」技能者育成の取り組みは、現場人財育成の製造業の人づくりとして大いに参考になる内容である。

3 おわりに

IoT導入を踏まえた人材育成、そして現場技能者やIErの育成や活用のあり方と実際について、事例や教育内容を紹介した。
モノづくりの大きな変化点を迎える中、現場の力を維持向上していくための、今後の人材育成のあり方について、少しでも参考になることを期待している。
(企画担当編集委員/東芝・高田 淳)