IEレビュー308号 特集テーマのねらい

 今求められる工場長の役割

1 特集テーマのねらい

グローバルにビジネスを展開する中で、日本の製造業を取り巻く経営環境は、依然として厳しいものがあります。そのため、各社とも、より一層の技術開発の推進、スムーズな新製品の量産立ち上げ、マザー工場を中心としたグローバル生産体制の強化、現地サプライヤーの育成、製造現場の中核人材の採用・育成など、次なる成長に向けた経営資源の蓄積を積極的に推進し、企業競争力の強化に磨きをかけています。このような中で、モノづくりの中核を担う工場長の役割が、従来にも増して重要になっています。
本特集では、このような背景から工場長の役割に焦点を当てました。工場長の役割と聞くと、何か大上段に構えた大げさな企画のように聞こえるかもしれません。しかし、本企画で意図したことは、工場長の方々が、日常業務において、日々何を考え、どのようなことに重点をおいてマネジメントをされているかを素朴に問いかけてみようというものです。厳しい状況の今だからこそ、工場を日々具体的にどのように運営し変革していけばよいのか、工場長のビジョン・思い・執念が、より一層重要であると思われます。
もちろん、工場長の役割と一口にいっても、各企業の所属する業界や業種、企業規模などによって、その役割、責任権限の範囲は様々であると思われます。業績の評価や管理、人材の開発、目標の設定、組織づくり、大小様々な課題解決など、その役割・機能は多岐にわたります。その意味では、他社の工場長の役割について紹介された記事を読んでも、自社に適用できる部分は少ない、実務家にとってはあまり有益ではない、とお叱りを受けるかもしれません。
しかしその一方で、工場長の方々が日々のマネジメントを行なっていく際には、業種や業界を超えた思想や物の考え方が存在しているのではないかと思うのです。人材の育成や継続的な改善活動の進め方、それに工場長の示すビジョンや思いといった、いわば人間臭い管理の根幹部分については、業種や業界の垣根を超えて、各社とも共通した傾向を有しているのではないかと考えました。そして、もしこの仮説が正しければ、各社のマネジメントに通底している思想や考え方とはどのようなものなのだろうか、という素朴な問題意識が本企画の発端でした。

2 特集テーマの骨子

本特集では、上記の問題意識にもとづき、工場長として日常の生産活動を円滑に進める上での自身の役割や管理方法、また改善活動を推進していく上での自身の役割・思い、改善活動を継続していくためのしくみ、中長期的な視点から部下を育成していく際の基本的な考え方、トップとしての心構えなどについて事例を収集しました。
ただ、前述の通り、工場長の役割といっても、企業規模や事業内容、人によってマネジメントの方法が異なることが想定されました。そこで、記事を執筆するにあたっては、最低限以下の3点については、各記事とも共通して執筆いただくようお願いをしました。
(1)まず、工場長として、日々具体的にどのような仕事を担当されているのか、工場長の業務内容、役割や責任範囲などについてまとめていただきました。
(2)次に、日々の生産を完遂し、工場の業績目標を達成する上で、どのような課題を抱えていたのか、その課題に対して、どのような対策を実施し、どのような成果に結びついたのか、といった点についてまとめていただきました。まとめる際には、どのような苦労・難しさを抱えていて、どのように克服してきたかといった点や、今後解決しなければならない課題として、どのような問題意識を持っているか、などの点にも触れていただきました。
(3)その上で、工場長として、日々様々な課題に直面し、解決を図りながら、マネジメントを行なっていく上で、どのような方針や理念・考え方がベースにあり、工場長としてどのような思いをお持ちなのか、その具体的な内容について、執筆いただきました。
記事の中には、上記の問いの内、(1)から(3)までの問いに対してバランスよく目配せいただいたものもありますし、特に(2)の具体的課題とその対策について、内容を詳しく執筆いただいたもの、また(3)のマネジメント方針や理念・考え方について焦点を絞って執筆いただいたものもあります。いずれにしても、工場長の方々の生の声を収録することができたと考えております。

3 記事構成

(1)論壇
論壇として、名古屋工業大学の荒川雅裕氏には、中小企業を対象とした工場管理者教育である「工場長養成塾」の取り組みについて紹介いただきました。
(2)ケース・スタディ
①東海理化の井上直彦氏には、国内主力工場の1つであると同時に海外拠点を多く抱える親工場の工場長としての役割を紹介いただきました。工場を運営し海外工場の模範となるためには、何か特別な飛び道具が必要なわけではなく、2Sの徹底を中心として、やるべきことを確実に、愚直にやり続けることで「安全・品質・生産性」のレベルを限りなく高め、人材育成・チーム力向上につなげて工場全体の文化にまで落とし込む必要があるというメッセージは、本質を突いて迫力があり改めて感銘を受けました。
②IHIの丸山隆行氏には、原子力SBUの製造部門である横浜工場の工場長としての日常業務を振り返り、工場長としての役割・基本理念を中心に、工場の直面する課題・5S活動を中心とした業務プロセスの改善など、多岐にわたる内容を執筆いただきました。中でも、工場長としての基本理念は、ボトムアップで人づくりをすることであり、人づくりとは、結局は「考える人」を育成すること、並びにこれを実現するための諸施策は、とかく当たり前のことのように受け取られがちではあるものの、改めて重要なメッセージとして感銘を受けました。
③ TBKK(Thailand)Co.,Ltd.の尾方馨氏には、海外駐在の経験を通じた工場長の役割を紹介いただきました。海外工場の場合、基本的な考え方や文化の違いから、特に現地従業員とのコミュニケーションが重要で、その上で迅速な判断・決断と実行力・リーダーシップが必要になるとのことです。「決して焦る必要はない、信念をもって本気で一所懸命ぶつかれば工場や従業員は必ず応えてくれる」というメッセージは、海外工場の工場長として赴任される方の背中を後押ししてくれる一言ではないかと感じます。
④大同プレーンベアリングの籠原幸彦氏には、自動車エンジン用軸受のマザー工場としての取り組みと工場長の役割について執筆いただきました。今後、内燃機関の電動化が見込まれる一方で、既存のすべり軸受事業はさらなる収益性改善が必要で、生産性の向上やグローバル同一品質に向けた継続的改善を、いかにリードしていくかといった役割が今求められているとのことです。
⑤キリンビールの神崎夕紀氏には、海外製造拠点の技術向上により、日本国内での製造の優位性が減少する中で、工場の独自性を活かした利益貢献活動について紹介いただきました。その上で、生産現場のリーダーには、1人1人が成長を実感できる組織づくり、人材の育成が最も重要な役割になるという点を指摘いただきました。

4 おわりに

以上、論壇および5つのケース・スタディ記事をみると、工場長の役割・基本姿勢として、以下3点の共通項が存在するのではないかとの感想を持ちました。
第1に、トップのビジョンや思いといった大上段に構えた大げさなものでなく、日々の小さな行為、例えば2S(整理・整頓)や挨拶・掃除といったシンプルで単純な行為の積み重ねこそがマネジメントにとっては重要だという点です。ビジョンや思いを頭で考えるのではなく、いかに日常の行為として従業員の末端まで身体化させるか、と言い替えてもよいかもしれません。第2に、トップのビジョンや思いの内容もさることながら、いかにこれを愚直にしつこく、徹底して繰り返していくかという実行局面の重要性です。とかく、我々はビジョンや思いの内容に目を向けがちですが、むしろ内容そのものよりもいかに徹底してこだわり続けるかというトップの姿勢こそが重要なのではないかという示唆です。このような意味では、トップの“背中”が重要なのではないかと思います。最後に、どの組織においても、人という要素に焦点をあてたマネジメントが重要であるという点です。日々のQCD管理や改善活動など結局は人に対する教育やモチベーションの維持・向上が重要であるという点です。「モノづくりは人づくり」とよくいわれる所以がここにあると思います。
企画担当者としては、以上3点の感想を持ちましたが、読者の皆さまはどのような感想を持たれるでしょうか。本企画の内容が少しでも読者の参考になれば幸いです。
(企画担当編集委員/坂爪 裕)