IEレビュー309号 特集テーマのねらい

 品質の改善・向上に向けて

1 特集テーマのねらい

一昔前までは、高品質のモノづくりといえば日本であり、メイド・イン・ジャパンは高コストかもしれないが、品質にかけては世界最高と評価されてきた。日本企業が人件費、円高対応、少子高齢化、市場のグローバル化など様々な理由で生産拠点を海外へ移す際にも、生産が難しい製品や高級品、技能伝承の拠点となるようなマザー工場は日本国内にあえて残してきたはずである。世界に誇れるそのような日本のモノづくりがそう簡単に根本的に変わり果ててしまうことなどあり得るのだろうか。
インダストリアル・エンジニアにとって生産の良し悪しの評価尺度は、昔からどこの企業へ行ってもQCDであるとされ、Qualityはその筆頭に位置づけられる最重要項目である。品質あってのコスト削減、納期遵守であり、一定の品質が担保されなければ市場で評価されることがないことは当然のこととして理解されているはずである。また、日本の多くの企業では5Sからはじまり、小集団による品質改善活動、全社的品質管理などが浸透している。このことはサービス業においても熱心な取り組みが進められている。
しかしながら、昨今のニュースを見ていると、品質データ不正や品質を保証するための検査工程の問題が頻繁に取り上げられ、企業風土やコンプライアンス意識の低さなどが問題点として指摘されている。
おそらく、多くの方々は日本のモノづくりはもうだめになってしまったのではないかという不安を感じているものと思われる。
そこで、本特集では、日本の製造業の品質改善・品質保証についての地道な取り組みを紹介することにより、生産現場を応援するとともに、日本の多くの方々の不安を払拭するようなものをまとめてみたい。

2 テーマの骨子

本特集では、上記のような問題意識にもとづき、以下の視点で事例を収集しました。
(1)従来は作業者が行なっていた品質検査工程において、IoT、AI、ロボットなどの最新技術を活用し品質保証レベルを向上した。
(2)ポカヨケやフールプルーフなど、作業者が誤った操作を行なえないようにすることによって、一定の品質を維持するための取り組み。
(3)QCサークル(QC活動)など、全社的品質管理活動の一環として、自発的に小グループで行なわれている品質の維持向上のため取り組み。
(4)検査方法を改善し、不良品の流出を防ぎ、顧客からのクレーム数削減につながった事例。
(5)ボトルネック工程や難しい作業工程を見直すことなどにより、品質の安定化につなげた事例。
(6)品質改善に関する人材育成への取り組み事例。
(7)サービス業における品質向上のための取り組み事例。
今回は、論壇1件、ケース・スタディ5件、テクニカル・ノート1件、プリズム2件の特集記事を掲載している。
主な内容は以降で要約する。

3 記事の構成

(1)論壇
日本生産性本部・経営品質協議会の坂本圭一氏に、「品質を顧客の立場から考える」と題して、価値づくり推進をねらう経営の品質向上について執筆いただいた。
坂本氏は、日本経営品質賞委員会の事務局次長をされており、モノやサービスの品質ではなく、「経営の質」の向上について論じていただいた。「価値とは何か」「卓越した組織に共通するものは何か」など、経営品質に直結する事項が興味深い事例とともに紹介されており大変参考になる。
(2)ケース・スタディ
①クボタの伊藤和馬氏に「クボタ生産方式(KPS)によるリードタイム短縮」と題して、建設機械製造部の品質改善によるリードタイム短縮について執筆いただいた。
リードタイムを短縮するために「停まっているムダ」をダイヤグラムで見えるようにしたところ、工場内で一番長い時間「停まっている」工程が出荷場であることが判明した。その主因は、工程内で発見された品質不良の手直しなどで完成予定時間通りに製品が完成しないことがあるため、余裕を持った安全在庫を保有していたためであった。そこで、品質改善活動を行なった結果、出荷場で安全在庫を保有する必要がなくなり、リードタイムを大幅に短縮できた事例が報告されている。
②ブリヂストンの田中博康氏に「デジタルを活用した品質改善・向上に向けた取り組み」と題し、生産現場におけるモノ・人の品質向上について執筆いただいた。
従来はデータ量が少なく真の原因を把握するのに時間を要していたところにIoTを活用し、膨大なデジタル情報と解析技術を軸に真の原因を素早く見抜き、本質的な改善活動サイクルが回るようになった事例である。合わせて、データ解析に必要不可欠なデータサイエンティストの要件や育成についても言及していただいた。
③東レの黒川浩亨氏に「東レの生産技術力強化への取り組み」と題し、東レの生産技術力強化を支える改善提案制度と小集団活動について執筆いただいた。
小集団活動の母体となるQCサークルと改善提案制度は1950年代初頭には開始されており、年1回の生産革新検討会は来年に70回目を迎える。
例えば、改善提案は年間平均すると1人7件程度で会社としては年間4万件もの提案がなされている。小集団活動については、今なお全員参加型で積極的に進められており、長期間にわたり地道な活動がしっかりと継続され大きな成果を上げていることが報告されている。
④村田機械の梅田貴司氏に「小集団活動による製造体質の強化」と題し、時代の変化に合わせた人材育成と品質改善の取り組みについて執筆いただいた。
QCサークル活動は1969年に始まり、1983年からはその発表会がスタートしているが、全社的な活動となってから20年近くが経過する頃から「発表会のための発表」になってしまっていた。そこで、原点に立ち返り、人材育成を主眼として各自のスキルを定量的に測り現場力を上げる活動へ転換し、小集団活動として再スタートした事例が紹介されている。
⑤カネカの川勝厚志氏に「カネカ生産・技術(モノづくり)ポリシーを基盤とした進化したモノづくり」と題し、小集団活動による品質安定化の取り組みについて執筆いただいた。
小集団活動による色調不良削減の取り組み事例が紹介されている。最終製品の検査で色調異常が発生する原因を4Mの視点でなぜなぜ分析を行なった結果、色調を目視検査しているため合否判断に個人差があることが判明。この個人差を解決するため、自動比色計を導入したところ、色調不良がゼロという成果が報告されている。
(3)テクニカル・ノート
電気通信大学の中嶋良介先生に、「人間の視覚特性に基づいた外観検査作業の改善活動の考え方」と題して執筆いただいた。
外観検査作業は、外観上の品質を保証する上で極めて重要であるにも関わらず、加工・組立作業のように直接的な付加価値を与えられるものではないため、多くの生産現場で様々な苦労をしている。この点に対して、人間の視覚特性に基づいた外観検査作業の観点から現在の生産現場の問題点が指摘され、それを是正するための考え方が示されている。
(4)プリズム
①日本科学技術連盟の安隨正巳氏に「日科技連が推進する品質経営力向上への取り組み」と題して執筆いただいた。
品質管理に関する日科技連のこれまでの取り組み、品質危機とも呼べるような現状を踏まえ、今後取り組むべき新たな品質経営の枠組みについて紹介をいただいた。
②日本科学技術連盟・ソフトウェア品質管理研究会の運営小委員会委員長を務めているヤマハの小池利和氏に「ハードとの違いを踏まえたソフト品質保証」と題して執筆いただいた。
ソフトとハードの違いを踏まえ、ソフト品質を保証する上で考慮すべきポイントを解説していただいた。

4 おわりに

この特集号を通して、品質の改善・向上について考えることが読者諸兄の参考になれば幸いである。最後になるが、大変お忙しい中、寄稿をいただいたすべての執筆者に心より感謝を申し上げて結びとしたい。
(企画担当編集委員/上智大学・伊呂原 隆)