IEレビュー309号 2019年度の特集テーマについて

 2019年度の特集テーマについて

1 特集テーマの背景

「IEレビュー」誌では、年5回発行される各号に「特集テーマ」を掲げ、そのテーマにそって論壇、ケース・スタディ、プリズムを掲載しています。特集テーマ以外にも、巻頭言、連載講座、会社探訪、現場改善、ビットバレーサロンなども掲載し、できるだけ立体的にIEの活用事例、課題、展望を提供するよう工夫しています。
さらに、私のすすめる本や編集後記は、親しみやすさを重視して構成し、本誌を多くの方に手に取っていただけるよう努めています。各号の特集テーマの意図や背景は、企画担当の編集委員による「特集のねらい」として各号の先頭に解説されています。
本稿では、年間5冊の特集テーマの背景について、昨年12月に開催された合同編集委員会での議論を要約して説明します。
特集テーマを検討する際に編集委員長として重視していることは、大別すると以下の3つです。
1つ目は、IEの適用可能性を探り、対象の広がりを示すことです。もともとIEは、生産工程のQCDを維持・向上させることを目的として発展してきましたが、近年では、その考え方や手法をサービス産業や農業に適用する事例、生産部門の前後の工程(設計、生産準備、生産技術、物流、サプライチェーンなど)に適用する事例、あるいは海外拠点での改善活動、国際的な経営効率や人材育成にIEを応用する例も見られます。さらには、ITの急激な進歩に応じて、IEの手法自体をIT抜きに考えることはできなくなっています。
しかし、得られたデータを有効活用するためには、IEの見方や考え方が必要になります。何のためにデータを集めるのか、目的と手段を峻別する姿勢が大切です。新たな技術の背景まで踏み込んで紹介する雑誌として、「IEレビュー」誌は大きな役割を担っています。IEをもっと普及させるためにも、経営から我々の日常生活まで、参考になる事例を数多く紹介したいと考えています。
2つ目は、改めて「IEの原点」を考える、ということです。IE的な見方や考え方が大切といわれ、その適用対象が広がる一方で、企業活動はグローバル化・スピード化し、IEの専門スタッフを育成しながら堅実な改善活動に取り組むことは容易ではありません。長期的な人材育成や企業体質強化が重要だと分かっていても、短期的な施策に目が移りがちです。また、生産企業の原点がQCDの向上と分かっていても、コストの視点が前面に出てくる場面が少なくありません。製品のライフサイクルが短くなると、IEが重視する標準化やムダの排除といった考え方は希薄になりがちです。
しかし、作業負荷の調整、日程管理、原価管理などを行なうために作業標準の整備は不可欠です。「IEレビュー」誌がIEの専門誌として存続していくためには、時代の流れに逆らうように見えても、常にIEの原点を問い続ける姿勢を忘れてはなりません。
3つ目は、「現場の感覚」を伝えることです。IEは標準化や改善を通じて経営に貢献する技術ですが、現場での工夫や苦労に触れずにIE活動を考察しても、本質に迫ることはできません。人材育成も、QCDの管理も、その出発点は現場です。流行に惑わされず、誌面を通じて「現場の匂い」を伝える雑誌でありたい、そう考えています。

2 各号の特集内容

(1)現場改善による現場力再構築(311号/2019年8月号)
「IEレビュー」誌では、上記の3つ目のねらいにそって、ほぼ毎年、現場改善の特集を企画しています。これまでは、「女性が輝く現場」「改善リーダーの役割」など、対象を限定した特集も企画してきましたが、今回は、幅広く現場力向上に結びつく現場改善を取り上げます。スピード化や競争環境の激化にともなって、長期的かつ本質的に現場力の向上に取り組む活動は難しくなっていますが、反対にそうした時代にこそ、競争力の原点となる現場の力を強化していくことが大切になります。企業の体質、人材育成、改善活動の継続といった切り口から、様々な現場改善がいかに現場力を向上させたかを考えてみます。
(2)グローバル生産再考(312号/2019年10月号)
これまでも、「IEレビュー」誌では数多くグローバル生産や海外生産に関わるIE活動を特集してきました。それらの多くは、日本と海外の生産分業、あるいは生産拠点のシフトに関わる特集でした。しかし、今日のグローバル生産は、海外拠点同士を結びつける生産・供給体制の構築を指しており、これまでの本誌のグローバル生産特集だけでは不充分です。日本企業の中国進出ブームが一段落した中で、海外拠点同士の連携を考えた上での人材育成、部品調達、改善活動、設備設計など、グローバル生産の工夫・苦労とIE 活動の展望を考えます。同時に、日本でモノづくり拠点を展開している外資系企業のIE活動も取り上げます。日本の生産性が低いといわれる中で、海外進出企業のIE活動、グローバル企業のIE活動を広く対比し、これからの時代に必要なIEのあり方・考え方を考えます。
(3)物流・ロジスティクス最前線(313号/2019年12月号)
ITの普及により我々の生活の利便性が向上する一方で、物流を担う企業では、労働力の不足が大きな問題となっています。多頻度配送が当然となる一方で、物流のコストと作業負荷はサプライチェーン全体の効率化に向けた課題ですが、物流プロセスに焦点を当てたIE活動は、近年の「IEレビュー」誌では特集されていません。物流というと、生産プロセスと消費者をつなぐ商品配送を想起しがちですが、資材の調達物流、工場内の物流プロセスも考慮に入れて考える必要があります。本号では、生産プロセスと上流・下流のプロセスとのつながりを視野に入れ、サプライチェーン全体の改善を実現したIE活動の事例を紹介し、IEとロジスティクスを結びつける新たな視点を議論したいと考えています。
(4)IoTとAIで改善できるか?(314号/2020年3月号)
IoTやAIは、IE活動にとって切り離すことのできないテーマです。しかし、大量のデータを収集する技術がいかに進歩しても、それを実際に改善活動に結びつけられなければ、企業の経営に貢献することはできません。データサイエンスという領域も注目を集めていますが、目的を明確にしてデータの利活用を進めていく視点が大切です。単なる「データ」を価値ある「情報」に変換していくためには、IEの視点や考え方が有効になります。この特集号では、技術進歩や情報機器の高度化といった手段に注目するのではなく、企業経営への貢献という目的が明確なIT技術の活用事例を集め、これからの時代にIEの考え方をいかに高度化していくべきか、またそうした活動を実践する人材をいかに育成していくべきかを考えます。IE活動への提言に踏み込みたいという考えから、疑問文の形での特集テーマを企画しています。
(5)ムダの削減とムダの効用を考える(315号/2020年5月号)
提供される製品やサービスのQCDを向上させていくためには、継続的な改善活動を進めていくことが大切です。そのために、付加価値とムダを区分し、徹底的なムダ取り活動が展開されていますが、その一方で、あえてムダを残すことが必要な領域があるのではないでしょうか? ムダの対極として余裕に着目すると、企業活動のどのような部分に余裕を残すことが有効でしょうか?
ムダ排除を徹底すると、本来必要な余裕まで失い、改善活動を継続する上でマイナスに作用する懸念があります。メリハリの効いたムダ取りを長期的に続けていくために、組織としてどのような余裕が必要になるかを探ります。こうしたムダと余裕の区分は、標準時間を定める際の基本です。ムダへの見方を考え直し、IE活動展開の鍵となる視点を提示します。

4 おわりに

「IEレビュー」誌は、最新の事例を単に紹介するだけでなく、背後にある考え方や工夫点をできるだけ盛り込むことで、IEの考え方を普及させ、その適用可能性を拡げていくことをめざしています。
読者の皆様とともに充実した誌面を作っていきたいと考えていますので、様々な形でのご支援をよろしくお願いいたします。
(編集委員長/河野 宏和・慶應義塾大学)