IEレビュー310号 特集テーマのねらい

上流工程にさかのぼったIE活動

1 特集テーマのねらい

IE活動は主に製造を中心に行なわれてきた。製造の上流工程には設計、生産準備などの部門が存在し、それらの部門との連携は大きな効果を生み出すといわれている。
設計部門との連携は、「コンカレント・エンジニアリング」と呼ばれ、1982年にDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)が設計プロセスにおける並列性を向上する方法を求めて研究された。現在では、設計から製造までの「設計リードタイム」短縮に向けて、設計、生産技術、製造が一体化して行なう活動として知られている。
一方、製品の企画設計や開発は行なうが、製品製造のための自社工場は所有せず、製造自体は大半を委託し、自社ブランドの製品として販売する「ファブレス fabless」といったビジネスモデルが存在する。設計部門と製造部門を持ち合わせないファブレス化の適否についてはここでは扱わないが、日本企業の多くは両部門を持っており、これらの企業が競争に勝ち残るためには、上流工程にさかのぼったIE活動が大変重要であると考えられる。
昨今では人手不足、設計リードタイム短縮からくる各部門の時間不足、守秘義務の強化などにより、上流工程への活動を阻害する状況も生まれているように感じる。一方、IT技術の進歩はこれらの部門を近づける役割を果たしているはずである。
上記の疑問から、本特集では最近の上流工程にさかのぼった活動について幅広く紹介するとともに、今後本活動が進むべき道を考える特集号としたい。

2 記事構成

(1)論壇
MEマネジメントサービス・ECM/MD研究会の大塚泰雄氏に「生産効率は上流のモジュラーデザインで決定する」と題して執筆していただいた。高付加価値化、カスタム化、低価格化の3つの生産課題に対する取り組みとして「マス・カスタマイゼーション」について紹介いただいている。マス・カスタマイゼーションの内容と位置づけに始まり、マス・カスタマイゼーションを成功させるため、上流段階の開発・設計部門が生産・物流部門へ上手くバトンタッチをするための1つの考え方である「モジュラーデザイン」について具体的に紹介いただいている。モジュールとは、部品・構成要素間の“相互依存性”をできるだけ小さくして、部品・構成要素を少数化する単位のことであり、モジュール化により機能的・物理的な組み合わせが容易になると、部品と部品を連結する“インターフェース”部分も簡素化・標準化でき、それぞれ異なる部品を組み合わせた設計が可能となる。これらについて製品モデルの確立から生産モジュール化までの流れを具体的に紹介いただいている。
(2)ケース・スタディ
①日立製作所の上野裕美子氏、堤大輔氏に「多品種製造における生産性設計」と題して執筆いただいた。本稿では、製造工程を中心としたIE活動から、上流工程である生産性設計や工程設計にさかのぼったIE活動について紹介いただいている。生産性設計とは、生産工程(加工、組立、検査など)を考慮した設計のことであり、工程設計とは、製品の組立構造や生産量情報を基に、生産設備や加工・組立条件などの一連のプロセスの決定をいう。生産性設計における組立性評価法の活用、工程設計の自動化技術を推進してきたが、従来の取り組みは、個別問題として取り組んでいるため、生産性設計において既存設備を活用した多品種製品の検討ができず、設備投資効率が低下するという課題に着目されている。その内容について事例検証も含め具体的に紹介していただき、大きな効果を生み出すことを示していただいている。
②安川電機の山口寛太氏、黒岩康文氏に「ロボットを活用した次世代生産設備開発におけるIE的アプローチ」と題して執筆いただいた。同社では、Y’sProduction25(次世代生産システムの構築)として、①市場要求納期を必ず守る、②「人手がかからない」ものづくり、③データで改善する仕組みの3点をコンセプトとして取り組まれている。
本稿では、その実現方策として、入間事業所内の安川ソリューションファクトリにおいて自社コンポーネント(ロボット、サーボ、コントローラ)を核とした自律的な次世代組立ラインの構築をめざした事例を紹介いただいている。本取り組みの特徴は、徹底した共通化、標準化にも取り組まれていること、事前検証プロセスに各種IE手法を織り込み、“作りやすく、無駄のない”、また“手戻りのない”生産設備開発をめざしているところにある。上記について、小容量サーボモータおよび、サーボアンプの組立ラインについて、その具体的な取り組み内容と、構築された次世代組立ラインを紹介していただいている。
③リコーの牧野俊彦氏に「ハーネスの設計上流工程でのバーチャル試作」と題して執筆いただいた。リコーグループでは、複合機やプリンターなどの情報機器を中心に、製品の開発・生産・販売・サービス・リサイクルなどの事業を展開されている。1990年代からコピー機の複合化による開発負荷の急激な増大により、新TSS(総合的設計生産革新)活動に取り組まれている。新TSS活動では、①試作機に頼らない製品開発、②技術の早期作り込み(難度の高い技術の十分な検証)、をねらいとして、「作らずに創る」というキーコンセプトをもとに取り組まれている。新TSS活動では、バーチャル試作と設計生産コラボ活動を進められている。本稿では、ハーネスに起因する品質と手戻りを改善するため、ハーネスの組立安定化による品質改善を設計と生産の各部門から参加する部門横断活動について、具体的な内容と大きな成果についても紹介していただいている。
④新潟原動機の高橋賢輔氏、三根大史氏、日野成樹氏に「NIIGATAのものづくり改革」と題して執筆いただいた。同社の主な取り扱い製品は、ディーゼルエンジン、ガスエンジン、ガスタービンと、これらを動力とした発電設備、Z型推進装置(Zペラ)などであり、製造・販売からアフターサービスまでを行なっている。同社では、新会社の設立を機に「ものづくり改革」を図るべく「定置・定員・定量」を柱に改革に取り組まれた。本稿では、生産方式の変更から、作業シナリオの作成とその活用・展開、工場設備の移設、図面の標準化など、多岐にわたる生産改革の中から上流へ遡ったものづくり改革について紹介していただいている。具体的には、3DデータにするXVL と現地・現物を3Dデータ化するリバースエンジニアリングなどについて紹介をしていただき、大きな効果をあげた内容が記述されている。
⑤東芝インフラシステムズの柴田稔氏に「設計技術者向けIE教育」と題して執筆いただいた。同社は社会インフラ事業を主たる生業とされている。東芝グループでは、東芝IE教育事務局を中心に各種の企画が開催されている。その中で、設計部門を含む製造部門以外の従業員にもっとIEの考え方を知ってもらい、製造現場で起こっている様々な問題を全員で解決できないか、または問題そのものをなくせないかと考え、設計部門にIE教育を行った取り組みを紹介いただいている。本稿では、教育カリキュラムの概要を示していただき、それにしたがい具体的な教育内容を紹介いただいている。また、受講生へのアンケート結果も示されている。設計部門がIEの原点であるムダ排徐の考え方を学ぶことで、設計業務自体を見直すことはもちろん、下流工程への効果も望まれる新しいIE教育について紹介いただいている。
(3)プリズム
デジタルプロセスの坂田恭一氏に「上流工程にさかのぼったIE活動」と題してVPS(Virtual Product & Process Simulator)について紹介いただいた。VPSは、富士通のものづくり現場から生まれた3次元活用ツールで、生産準備のフロントローディングを実現し、ものづくりのQCD(Quality、Cost、Delivery)向上に貢献することができる。本稿では、組立製品への活用として、VPSはDFM(Design for Manufacturing)の概念をシステムに組み込み、製造要件の付加、組立工数の算出、組立性の点数評価を実施できることを示されている。さらに、生産ラインへの仮想検証として、3次元データを活用した工程計画ツールであるVPS GP4について紹介いただいている。

4 おわりに

本特集を企画した段階では、どのくらいの記事が集まるのか不安であった。しかし、上記の内容を見ていただいても分かるように、いろいろな視点からの上流への事例を集めることができた。記事を眺めてみると上流へのIEの活用は大変大きな効果を生むことになり、上流のプロセスを見つめなおす機会ともなることが読み取れる。
(企画担当編集委員/成蹊大学・篠田 心治)