IEレビュー311号 特集テーマのねらい

現場改善をカイゼンする

1 特集テーマのねらい

かつてTQCに代表される「職場が一丸となって行なうカイゼン活動」という日本固有の特徴がモノづくりに大きく貢献したといわれている。しかし、日本の一番の強みといわれた小集団活動も、短期的成果がより強く求められ、人材の育成よりも効率化が優先される状況においては、継続的な形での運営が困難となりつつある。急激に進むグローバル化や少子高齢化の進展にともなう人手不足などの問題に直面し、従来「強み」と考えられてきたものが、変革の足かせになるとまでいわれるほど、現場は対応に苦慮している。
そこで、現場が大きく変化しているこのような状況下において、従来の地道な改善活動の資産を活用しつつ、環境変化にあわせて現場改善をカイゼンしている取り組みを紹介することが本企画の目的である。

2 記事構成

(1)論壇
人材開発協会の齋藤彰一氏に「現場改善をカイゼンする~ものづくり現場の変容に応え新たな現場価値を創造する取り組み~」と題して執筆していただいた。同協会は、能力開発の基準作りと、そのレベル認定の両面から人材育成の強化を促進する目的で設立された協会で、職能別の人材に求められる基本的な知識・能力を公正にレベル別に認定し、「マイスター」検定として位置づけることにより、日本独自の目に見える「人づくり」の推進をめざしている。この制度も発足後30年近くがたち、外部環境の変化に応えるために2012年にリニューアルが実施されている。このリニューアルの経緯や意図を通じて、現場で行なわれる改善活動における人材育成とそれを継続することの重要性と大変さについて語られている。
また、継続して改善を続けられている成功事例について紹介していただき、成功している企業の特徴についてまとめられている。従来の方法を繰り返していても思ったような効果があがらず、現場改善がジリ貧になっているという声もよく聞かれる、そんな中にあっても現場改善で着実に成果があがっている職場では、トップに「こういう工場にしたい」という強い思いがあり、その思いを受けて、「全員」で「継続」して「実践」することが成功のカギであると指摘されている。そのために特に心掛けるべきこととして、全員が共有する「場」をつくるために定期的に時間をとることと、状況や結果を共有するために「見える化」することの大切さが指摘されている。
女性、シニア、外国の方々と様々な人材が参加し、多様化するからこそ、皆で共通に取り組めるのが改善活動であり、意識してその場と時間をつくることが改善活動を停滞させず、前に進める力になると結ばれている。
(2)ケース・スタディ
①アスカカンパニーの小林孝洋氏に「MK 活動による継続的な改善~楽・正・早・安(らくせいそうあん)~」と題して執筆いただいた。MK活動とは、同社が1978年から継続して取り組んでいる小集団活動で「みんな(M)で活(K)動、みんな(M)で改(K)善」を意味する。そのため、経営者から一般社員まですべての部署が参加するだけでなく、第1回目から成果発表会にはお客様も参加している。また、時間外での自主活動ではなく、経営マネジメントシステムの中に位置づけられ、活動によってもたらされる成果は評価に結びつけれている。それによって、正社員だけでなく例外なくすべての社員が取り組むというしくみが定着しており、改善活動の継続を実現させている。
活動を進める上で重視することとして、「より楽に楽しく、より正しく正確に、より早く、より安心安全に(楽・正・早・安)」を基本精神としている。改善の目的を「早く、安く」といったコストカット先行ではなく、安心安全をテーマにすると、身近な作業が楽になることで職場のストレスを軽減させ、職場が活性化し、結果的に継続的な発展を生み出している。
今後は「働くすべての人の成長と会社の成長が一体化した活動」に進化させることをめざされており、まさに改善活動を「みんなで」カイゼンし続けることが継続の原動力であることが感じられる。
②住友重機械マリンエンジニアリングの山口雄嗣氏に「造船工場における生産改善の取り組み~変化に追従する造船工程をめざして~」と題して執筆いただいた。造船業は典型的な労働集約型産業で、特に製造工程は人に依存する部分が多いという特徴がある。その人材が多様化する中で、人と機械の最適調和を志向し、「人にやさしい工程づくり」をめざした改善活動を紹介いただいた。今後、海外研修生や協力員をはじめとする多様な人材をフレキシブルに活用できる環境を整備するため、「脱熟練工化」に積極的に取り組まれている。その方法として単なるITを活用した自動化ではなく、Man-Machineの一体化を志向することにより、変化する環境を逐次織り込みながらめざす方向へ自律的に改善し続けていくことができる工程をめざしている。最後に、その取り組みが「顧客ニコニコ、仲間イキイキ」を具体化した姿であると結ばれているところが印象的である。
③3つ目の事例は「従業員の半数が60代以上! 誰もが働きやすい職場をめざす」と題して加藤製作所の取材をまとめている。同社はプレス板金部品の総合メーカーで、金属加工において高度な技術を保有している岐阜県の中堅企業である。
少子高齢化による生産人口減少を一番実感している地方において、いち早く定年退職者に着目、積極的にシニアを採用した結果、現在は、約120人の従業員の半数が60歳以上となっている。高齢者には単純作業をしてもらえばいいというのではなく、それぞれのキャリアを活かして職場や仕事の改善に取り組んでもらい、20代30代の若手リーダーをサポートして、相乗効果を発揮している。高齢社会を先取りして高齢者の働く喜びを作り出し改善につなげている。社長の「皆がイキイキ働けるよう、しくみを整えたり環境を提供したりすることが私の仕事」という強い意志によって「シニアと若手のベストミックス」が実現されている。
④西部電機の梁瀬雄氏に「端末活用による情報の共有と生産プロセスの強化~ STOP!! 紙・ペーパーレス化の推進活動~」と題して執筆いただいた。同社の産業機械事業部では、水・電気・ガス・石油などのエネルギーを暮らしに導くための大切な役割を担う部品を製造している。そのため、顧客の仕様に細かく対応できる製品開発力と、その仕様を完璧に再現する高い品質が要求される。それに応えるために、長年にわたり生産現場の改善活動に取り組んできた。しかし、改善活動が縦割りになり、現場だけの取り組みでは限界を感じた際に、生産システムを全体から見直してみると、製品の製造に関わる時間よりも仕様書や生産指示書のハンドリングにかかる時間の多さが顕在化した。そこで、設計・開発・製造をすべて巻き込んだ「情報の流れ」に着目した改善活動として、生産現場の「ペーパーレス化」の取り組みを紹介いただいた。この取り組みにより、単なる「ペーパーレス」という効果だけでなく、進捗状況の正確な把握や製品仕様書のチェック機能の強化による品質の安定といった効果が得られた。情報の流れに着目すると、工程や部門といった部分最適ではなく、生産システム全体の流れの改善につながることが実証されている事例である。
⑤トヨタ紡織の小川邑明氏、高井智幸氏に「酒蔵に寄り添ったモノづくり復興支援~お客様目線での新たな酒づくりへの挑戦~」と題して執筆いただいた。同社では、東日本大震災直後から色々な支援活動を実施していた。その一環として、陸前高田市にある酔仙酒造の復興支援の取り組みを紹介いただいた。入口は「復興支援」であったが、新しい工場はいかにあるべきかを一緒に考え続けた結果として、「酒」と「クルマ」というまったく異なる製品を取り扱っているが、モノづくりの基本は同じであるという方向性が見いだされた。トヨタ生産方式の考え方をじっくり共有し、地道に取り組むことによって、同じ成果を得られることが示唆されている。場の違いがあったとしても改善活動に違いはないということが実証されている事例である。

3 おわりに

2019年ものづくり白書においても、「わが国製造業は大変革期にあり、非連続的な変革が必要」とうたわれている。
しかし、現場で行なわれる改善活動が意味のないものとなったわけではなく、改善活動を継続すること、経営トップを含めたみんなで取り組むことにより、新たな改善を生み、それが変革につながっていくことが感じられる特集となっている。
(企画担当編集委員/産業能率大学・斎藤 文)