IEレビュー312号 特集テーマのねらい

グローバル生産再考

1 特集テーマのねらい

日本企業のグローバル生産の歴史を振り返ってみると、1980年代に日米貿易摩擦やプラザ合意を背景に拡大してきた後、1990年代から2000年代には世界経済のグローバル化と日本が抱えた「6重苦」(円高、高い法人税率、厳しい労働・解雇規制、経済連携協定の遅れ、厳しい温暖化ガス削減目標、電力不足)、そして、新興国との圧倒的な人件費差などに対応する施策として、東南アジアを中心にさらに拡大してきた。
海外進出の勢いは、一時「国内空洞化」が懸念されたことからもうかがえる。その後、2010年代に入り、国内での「6重苦」が解消されてきたこと、そして、東南アジアでの人件費の高騰といった要素もあり、製造の国内回帰の動きも出てきている。
現場のオペレーションという観点からは、進出当初は、日本流のモノづくりを、そのまま海外工場に持ち込むケースが多く、その定着に苦労もあったが、その後、現地の状況や文化に合わせてオペレーションを高度化してきた拠点も多い。
「6重苦」が解消される中で海外工場に期待することとしては、コストメリット以外にも「製造拠点周辺での市場の伸び」「現地ニーズを把握すること」といった理由が上位となっている。これは、海外工場が生産面以外での企業戦略における重要性が増してきたためとも考えられる。
このように、グローバル生産は、事業・製品の技術的状況、グローバル市場状況、進出先の地域状況、そして、個別企業の経営戦略に大きく依存しており、強化や運営の方向性が多岐にわたるとともに、時間とともに変化してきている。
つまり、グローバル生産は日本企業にとって非常に重要な検討課題であると同時に、一概に一般論では論じきれない拡がりを持つ課題でもある。
そこで、本企画では、まず座談会にてグローバル生産の経緯や現状を多面的に俯瞰し、そこから今後のグローバル生産においてIEが果たしていく役割を議論する。
そして、ケース・スタディ、レポート、プリズムにて、グローバル生産における現場ベースの改善活動の現状を紹介する構成とした。グローバル生産で考えるべき多様な側面から、今後の方向性を考えるきっかけを提供する特集としたい。

2 記事構成

(1)座談会
座談会では、出席者に「日本企業の海外現地法人数の推移」、「現地法人に出資している日本企業の投資目的」、「デミング賞の受賞組織数の推移」のデータを共有し、これを踏まえて議論を進めた。
まず、日本企業のグローバル生産の歴史と現状を概観し、その後、グローバル生産の今後の予測、今後のグローバル生産に対するIEの貢献について議論を行なった。現状としては、アジア圏のモノづくり力が向上している一方で、TPMなど全社一丸となった活動では、日本国内のモノづくりがまだ先行している部分があるという共通認識が得られた。
今後のグローバル生産では、日本のモノづくりの強みをもう一度再認識し、IEや現場ベースの地道な改善活動と、IoTやAIといった新しい科学技術や経営手法とのバランスを考えていくことの重要性がクローズアップされた。出席者から様々な情報や取り組みが語られ、拡がりがある座談会となった。
(2)ケース・スタディ
アズビルの今福舞子氏に「中国大連工場のポジショナー組立ラインの改善」と題し、中国工場改善の取り組みを紹介いただいた。
従来の中国市場向け中心の製造からグローバル供給拠点へと役割が変わる中、少品種多量生産から多品種少量生産へと生産の変革が必要となり、現地と日本からの支援者が一体となって改善を進めた取り組みの紹介である。
中国工場のキーメンバーに湘南工場の現場でモノづくりを習得してもらう、テレビ会議で顔を見ながらコミュニケーションする、組付作業のポイントを記した要点表を掲示するなど、結果的には日本で当たり前に実施されてきた取り組みを中国工場に展開することで生産改革を進めた点は参考になる。最後はコミュニケーションを通じて想いを共有することが大事という、女性としての感性も踏まえた内容となっている。
(3)レポート
ライターの江頭紀子氏には「魅惑の国ラオスの工業団地訪問記(前編)~秘められたプライオリティを探る~」と題した訪問記を執筆いただいた。全2回の訪問記の1回目ということで、電力・鉱業・農林水産業が盛んなラオスの国情の紹介、日経企業専用の工業団地であるパクセー・ジャパン経済特区の紹介、そして、日系の子供服工場とワイヤーハーネス工場の2つの現場が紹介されている。
経済発展を進めているラオスの国策、周辺国との交通の便のよさや人件費の安さなどが特徴のパクセー地域といった状況を踏まえて、近隣の職業訓練学校とも連携しながら工場を立ち上げ、経営している様子が分かる。
モノづくりの経験が少ないため中国人やタイ人のマネージャーに現場管理をさせる、良品・不良品の写真を掲示し、3現主義の解説を掲示するなど、IE改善の要素も取り入れながら、生産の安定化を進めた様子がうかがえる。
海外生産には進出する企業・工場側のねらいと受け入れ側の状況とマッチしないと上手くいかないと感じさせられた。
(4)プリズム
①日本IE協会の田子雅基氏、五十嵐健二氏には「中国改善活動記」と題して、日系の中国工場で実施中の日本IE協会としての現地改善活動支援の内容を紹介いただいた。
部品製造工場での生産性改善として設備稼働率向上に取り組み、機械停止時間を最小化するための外段取りの徹底と段取り作業手順の見直しを進めた結果、設備稼働率改善8%という結果が得られた。
その際、改善を推進できる人材を育成するという視点から、調査・分析・施策検討を工場メンバーと一緒に行なう指導スタイルを取った。中国ならではのスピード感や課題も踏まえ、今後の品質改善活動への展望で締めくくっている。
②香川改善オフィスの香川博昭氏に「ミャンマー・ヤンゴン大学を訪ねる」と題して、同国での経験を紹介いただいた。
この特別講座は、ミヤンマーの大学を卒業する若手に、日本のモノづくり現場で実践されている改善活動を紹介し、モノづくりへの興味喚起と、社会人としての仕事の中での改善意識を持ってもらうことを目的として行なわれている。講座では、IE、TQM、TPSなど日本でも広く行なわれている改善活動の紹介と、ワークサンプリングやQC手法の演習が中心である。
学生の9割が女性ということで驚くと同時に、改善意識を持ってくれた学生がいたことに手ごたえも感じた経験談となっている。
③日本生産性本部の寺西菜緒氏には「『ミャンマー流』生産性向上の拠点」と題して、ミャンマー生産性本部(MPC)の立ち上げにおける取り組みを紹介いただいた。
MPCにて5S、QC、IEなどの指導や企業人財育成などを16名のコンサルタントで行なうが、彼らを現地モデル企業でのOJTも交えて養成をしていく中で、ミャンマーの特徴としてトップダウンの強さ、現場マネージャをキーマンにした改善推進など、地域特有のポイントが明らかになってきた。
現地の改善人財の育成など時間を掛けて進めなければならない課題も多いが、ミャンマー産業の生産性向上にMPCが貢献していくことへの期待で結ばれている。

3 おわりに

グローバル化とデジタル化が進む中、モノづくりのあり方も転換期を迎えているが、その中で、各企業の生産戦略・企業戦略の中でグローバル生産をしっかりと位置づけるとともに、日本のモノづくりの強みを意識し、現場ベースの地道な改善活動もあわせて進めていくことが、最終的には強い現場を作り、残していくことにつながるということを再認識できる特集となっている。
(企画担当編集委員/(株)東芝・高田 淳)