IEレビュー313号 特集テーマのねらい

物流・ロジスティクス最前線

1 特集テーマのねらい

ITの普及により我々の生活の利便性が向上する一方で、物流取り巻く環境も大きく変化しており、各企業では物流機能の整備が課題となっています。生産・販売面を優先した多頻度配送が当然となる一方で、物流部門への作業負荷集中やコスト上昇がサプライチェーンの課題としてクローズアップされてきました。
物流プロセスに焦点を当てたIE活動は、近年の「IEレビュー」誌では特集されていません。物流というと、生産プロセスと消費者をつなぐ商品配送を想起しがちですが、対象物から分類すると以下のように大きく分けることができます。
・製品(出荷納品)物流
・半製品(場内)物流
・原料・資材・部品(調達)物流
・廃棄物・回収物(静脈)物流
したがって、資材・部品などの調達物流や工場内の場内物流に加えて、廃棄物などの静脈物流も視野に入れて考える必要があります。 
本号では、生産プロセスと上流・下流のプロセスとのつながりも視野に入れ、サプライチェーン全体の改善を実現したIE活動の事例を紹介し、IEとロジスティクスを結びつける新たな視点を議論したいと考えています。

2 記事構成

本号では、(1) 物流を取り巻く環境変化への対応、(2)販売・生産と物流の部門間連携による改善活動、(3)サプライチェーンの全体最適化、(4)物流へのIoT・自動化技術適用の観点で事例を取り上げています。
ケース・スタディでは、①構外の部品輸送、②国内外の工場内部品物流、③工場から納入先間の中継基地物流の事例を取り上げ、物流分野でのIE活用を探っています。
プリズムでは、①(公社)日本ロジスティクスシステム協会でのIE 手法活用の取り組み、②(一社)日本マテリアルフロー研究所でのサプライチェーン全体最適化への取り組みを寄稿いただいています。
(1)論壇
早稲田大学の黒須誠治氏に「物流・ロジススティクス・サプラインチェーンとIE」と題して執筆していただきました。広義の物流という概念から、その形態や機能の変化とともに「流通」「ロジスティクス」「サプラインチェーン」などの呼び名が派生的に生まれてきました。本論壇では、物流を起点にロジスティクスやサプラインチェーンに至るまでのプロセスに関して、実例を交えて非常に分かりやすく解説いただいています。
IEとの関連についても、例えば、「ロジスティクスでは、低コストで効率的に物を移動したり保管・保存する業務が中心となるが、これらの改善では、時間研究や動作研究のIE 手法が改善の大きな手助けになり得る。また、無人搬送などの物流機器の導入企画・運用法案決定に関してもIErは大きな役割を担うべきである。物流の分野でも、IErが活躍する場は、技術が進歩すれば進歩した分だけ、さらに広がる」と心強い提言をいただいています。
(2)ケース・スタディ
①デンソーロジテムの大山盛雄氏、大林禎幸氏には、「ピンチをチャンスに変える物流改革」と題して執筆いただきました。両氏の所属する会社は、20年前に物流部門が分離独立した物流のプロの集団です。「社会とお客様に必要とされ続ける会社」の理念のもと、会社の質・仕事の質・個人の資質の3つの「質」の強化を掲げ、改善活動を展開しています。
今回は、それらの活動の中から中継基地での改善事例を中心に紹介いただきました。工場から納入先の間に立地する中継基地での物流業務では、納入遅延などのトラブルが直接納入先に影響を及ぼしてしまうリスクがあり、物流品質の維持・向上は極めて重要な課題です。昨今の労働人口減少や車両オペレーターの労働時間管理厳格化などの環境変化により、従来の構造のままでは、今後のリスクへの対応が限界を迎えるとの危機感から、物流の見える化による改善活動に取り組み大きな成果を上げています。特に、輸送便ドライバー作業の領域まで踏み込み車両回転率向上を図った内容などは、サプライチェーン全体の改善を実現した事例として広く参考となる内容です。
②ブラザー工業の西村栄昭氏には、「Brother Free Location System導入を中核とした工場内物流改革」と題して執筆いただきました。グローバルに製造工程を展開する企業にとって部品調達や製品納入は、一層複雑化し、製造コストや製造リードタイムにも大きく影響を与えてしまうようになっています。本事例では、グループ部品倉庫の状態を定量評価するため、「QCD目標」を設定し、全体最適化推進の指標として共通の価値観を持って活動展開したことにより、現地の倉庫部門での庫内レイアウトの最適化、新たな倉庫管理システムの導入などが進み、面積削減・作業工数削減などの大きな成果を生み出しています。また、各事業に分散していた企画機能を、全社横串組織として集約し、組織横断的に活動できるようになり、活動の活性化につながっています。
特に、スマートフォンを活用した倉庫管理システム構築の内容などは、物流へのIoT、自動化技術適用の事例として広く参考となる内容です。
③インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(以下「IVI」)でファシリテーターを務められているマツダの奥屋太志氏には、「部品輸送トラックの位置把握と輸送時間の実績収集による最適化」と題して執筆いただきました。IVI は、AI/IoTなどを活用したものづくりをめざし、2015年に企業の枠を超えて発足した活動です。2018年には、IVRA-Next(つながるものづくり実現戦略)を打ち出し、実務シナリオWGで数多くの現場で活動を展開されています。今回は、2018年度優秀事例の中から、部品輸送の実装事例を紹介いただきました。
製造業においては、多くの物流において多数のトラックを使用しており、昨今のドライバー不足などの環境変化への対応を含めて、効率的な運用が課題となっています。この課題を解決するためには、①走行効率、②積載率をいかに最大化していくかがポイントと位置づけています。走行効率に関して、各車両にGPS端末を設置し、車両動静の実績情報を収集するとともに、走行時間と荷積み・下し時間の原単位を算出し、最適運行計画を自動的に設計するシステムを構築しました。このシステムの活用により、トラックドライバーの勤務時間短縮や物流費の削減を可能とした事例が紹介されています。基本的な物流指標である車両稼働率向上の事例であり、これから物流改善に取り組む方にはぜひ参考にしていただきたい事例です。
(3)プリズム
①日本ロジスティクスシステム協会(以下「JILS」)の須山泰木氏、風間正行氏には「JILSのIE手法を活用した取り組みについて」を執筆いただきました。JILSは1992年に設立されたわが国唯一のロジスティクスの専門団体です。物流高度化に向けてIE手法を活用した各種事業を紹介いただいています。
②日本マテリアルフロー研究センター(以下「JMFI」)の川野信夫氏には「サプライチェーンの全体最適へ、協働で研究・教育・啓発を推進」を執筆いただきました。JMFIは、2015年に設立されたサプライチェーン・ロジスティクスの改善をめざした団体です。「研究」「教育」「啓発」を3本柱に会員企業と連帯した研究会活動や人材育活動を展開しており、活動の成果も公開されているので、関心のある方は参照いただきたいと思います。

3 おわりに

物流を取り巻く環境が大きく変化する中でも、物流コストの削減、品質向上は企業の競争力を維持する上で重要となっています。特に、海外移転などの生産体制見直しや小ロット多頻度などの輸送形態の転換といった大きな変化がある時には、従来とは違った視点での改善活動が求められることになります。規模拡大時とは異なり、昨今のような環境変化時に柔軟性を確保するためには、設備投資とともに機能を最大限に使いこなすソフト面の改善が重要となってきます。また、物流分野だけではなく、製造・販売も網羅した販製流一貫での最適化も不可欠です。IErとしては、改善家から全体最適化のプロモーターとして、問題解決の機能アップに取り組んでいく必要があります。本号が物流改善に取り組むIErの参考になれば幸いです。
(企画担当編集委員/JFEスチール(株)・小堀 敏雄)