会長挨拶

新野 隆
日本インダストリアル・エンジニアリング協会 会長
日本電気㈱ 取締役 会長
私たちを取り巻く世界は、先を見通せない変動の時代を迎えており、以前にもまして変化のスピードが加速しています。それにはデジタル技術の進化が大きく寄与していることは言うまでもありません。一例として、様々な困難に直面したコロナ禍において、クラウドコンピューティングやデジタルツールの活用が急速に進み、働く場所や時間の制約が大きく取り払われました。さらに昨今のAI、とりわけ生成AIの目覚ましい進化によって、従来、人にしか出来ないとされていた業務や作業の自動化、効率化が飛躍的に進んでいます。このように、今、私たちは、デジタル技術の進化によって「生産性の飛躍的な向上」が日々進行する社会を生きていると言えます。
残念ながら日本は現在、時間当たり生産性、一人当たり生産性いずれもOECD加盟国の中で最も低い国のひとつに甘んじています。さらに、グローバルの先進的な企業は既にこの潮流を捉え、さらなる生産性の向上の取り組みを加速しています。日本の産業が競争力を取り戻すことができるか、さらに差を広げられるのか、私たちも時機を逸することなく、この課題に取り組む必要があります。
技術が生産性を向上させる一方で、同時に大切なのは人です。働く方々のエンゲージメントは生産性と密接な関連を持ちます。私自身これまで取り組んできた中で、従業員一人ひとりが仕事に対して意義を見出し、意欲と能力を最大限に発揮することで、組織全体の生産性が大きく向上することを目の当たりにしてきました。大事なのは、経営者自らがリーダーシップによる変革への明確なビジョンと戦略を示し、働き方やコミュニケーション改革を率先して実行することで環境を構築することです。幸いなことに、日本には古来、勤勉さ、人を大切にする文化、多様性を柔軟に受容する文化が深く根差しています。これらの力を最大限発揮できれば、大きな競争力となると確信しています。
こうした課題を踏まえ、日本IE協会の設立理念である「IEを通じた日本の産業競争力の強化」に向けては、製造現場の改善、改革に磨きをかけることは当然重要ですが、加えて、より幅広く産業、経営の視点から全体最適の活動に発展していく必要があると考えます。そのためには企業の枠を超え、技術から人にいたるまで産業全体での価値創出、変革の推進にむけた議論が活発に行われることを期待しています。
私自身も、この協会の活動を通じて日本の産業の持続的な成長と競争力向上の一助になれるよう尽力していきたいと考えております。引き続き、会員及び関係者の皆様のご支援、ご協力をよろしくお願い申し上げます。