国内モノづくりの展望
2003年12月 / 233号 / 発行:2003年12月1日
目次
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巻頭言
効率の哲学
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特集テーマのねらい(特集記事)
国内モノづくりの展望
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論壇(特集記事)
国際競争を乗り切る国内モノづくりのあり方
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ケース・スタディ(特集記事)
工芸品から工業品を目指したモノづくり改革
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ケース・スタディ(特集記事)
材料調達を基軸とした市場対応モノづくりの構築
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ケース・スタディ(特集記事)
現場マネジメント革新を生み出したTプロジェクト活動
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ケース・スタディ(特集記事)
グローバル時代のなかでのパソコン事業のモノ作り戦略
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ケース・スタディ(特集記事)
高効率・高フレキシビリティ生産に向けての人材づくり
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ケース・スタディ(特集記事)
見えざる資産を蓄積・継承することによるものづくり力の強化をめざして
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ケース・スタディ(特集記事)
2005年に生き残る進化し続ける強い工場づくり
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プリズム(特集記事)
IEとは芸術作品である
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プリズム(特集記事)
ワールドクラスのSCを構築するための国内製造部門の対応
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プリズム(特集記事)
ISOと経営革新
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プリズム(特集記事)
SCMで顧客対応のスピードを向上させた(株)ダン
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連載講座
生産性評価法[Ⅱ]
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会社探訪
独自技術にこだわる超音波の用途開発型モノづくり-本多電子(株)-
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現場改善
薄板燃料タンク製造ライン改善
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ビットバレーサロン
IEと組織マネジメントは生産革新の両輪
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研究ノート
日本における国内生産活性化に向けての一考察
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コラム(28)
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ドミニカ便り(3)
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協会ニュース
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新刊紹介
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編集後記
徹底した改善によるモノづくりに着眼した理由
多くの製造業で、海外、特にアジアヘの製造拠点移管が進んでいる。生産移管は、技能者の減少、設備投資の抑制、モノづくり技術の停滞など、国内製造業に大きな変化をもたらした。このように製造業を取り巻く状況が大きく変わるなか、日本でのモノづくりの将来に対して、高額な人件費やインフラコストを前に、悲観的な意見が多く述べられている。その一方で、国内でのモノづくりがどのような方向に進んでいくべきかについて、その展望を明確に示した文献は少ない。最近、マスコミではこの問題に対して、国内製造拠点の役割として、以下のようなことが言われている。
- ①消費圏に適した製造拠点としての最適地生産
- ②新製品の立ち上げと新技術確保のためのマザー工場
- ③知的所有権によるモノづくり技術の流出防止
国内モノづくりに望まれること
本特集では“徹底した改善によるモノづくりの強化”について、改善の成果や結果の報告よりも、活動の経緯と工夫・苦労されている点を中心に書いて頂くことを目的とした。ところで、“徹底した改善”とは一体どのようなものだろうか。最近、マスコミでは、日本の工場の「復活」と題して多くの特集が組まれている。「復活」とは、過去に蓄積したものを蘇らせることである。徹底した改善とは、失われつつある国内のモノづくりを再考し継続するだけでよいのであろうか。本特集で集められたケースをみてみると、そこには復活だけでは言い表すことができない徹底した改善のあり方が凝縮されている。それは、すべてのケースが、“今までのモノづくりについて原点に戻り、もう一度見直しをしている”ことにある。今まで構築してきたものを当たり前として受け止めるのではなく、なぜこのやり方でよいのか、何が本質なのか、何を目的にすべきなのか、改善の範囲は現状のままでよいのかなどである。もちろん、このように問いかけ、新たなモノづくりを生み出すためには、今までの経験、知識、技術、人材が確たるものでなければならない。しかし、それらをもう一度新たな目で見直してみることが、徹底した改善を生み出す糸口となっている。国内モノづくりの展望を考えるとき、徹底した改善によるモノづくりの強化はひとつの方向であり、決してそれがすべてではない。しかし、本特集で示されたケースをみると、原点に立ち返り新たに徹底した改善によるモノづくりを生み出していくことは、今までのモノづくりを「復活」ではなく「進化」させ、国内モノづくりの展望を切り拓いていく上で、重要な役割を果たすように思えるのである。
記事について
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論壇
トヨタ自動車(株)の安川氏には、中国のモノづくりの発展と特徴、日本のモノづくりの現状と復権を踏まえ、国内生産における圧倒的競争力を確保し、自動車業界の「国内空洞化」を防ぐために“4次元サプライチェーン改革”という考え方を示し、4つの次元の意味について、具体的な活動内容も含めて簡潔・明快に紹介していただいている。特に、新技術/新製品、新生産技術/新工法、開発リードタイム、生産/供給リードタイムという4次元の経営指標を改善していくための第1ステップが「ムダの見える化」であるという主張は、改めて本質を重視する考え方の大切さを伝えてくれる迫力がある。最後に、「モノづくりは人づくり」であるという考えに立って、心・頭・体のパワーアップの重要性が述べられている。 -
ケース・スタディ
- ①徹底した改善において、改善の範囲を全体まで広げることが重要である。車のステアリングホイールのなかで、ウッドハンドルは、特殊な技能を必要とすることから、いくつもの生産拠点を経て生産される。(株)東海理化の恒川氏、河原崎氏には、工芸品とも言えるウッドハンドルの生産について、1次・2次仕入先まで含めた生産工程全体を一貫してシンプル化する改善について紹介して頂いた。
- ②調達における徹底したモノづくりはどうあるべきだろうか。松下電器産業(株)の伊藤氏、辻氏、面田氏には、製造工程でフレキシブルなモノづくり体制が確立されつつあるなか、サプライヤーから工場までPull要求に基づいた一気通貫の仕組みについて、TV事業での事例を紹介して頂いた。コンサイメント倉庫(VMI)の導入、仕入先との情報共有Webの構築、納品・配膳システムなど、Pull要求にこたえる一貫した材料調達の仕組みづくりについて述べられている。
- ③徹底したモノづくりを行うためには、製造・物流といったハードの構築以外に何が必要だろうか。長浜キヤノン(株)の丹治氏には、徹底した製造物流改善(Tプロジェクト活動)を通じて生み出されたマネジメント革新とその重要性について紹介して頂いた。Tプロジェクトによる徹底した製造物流改善とともに、現場マネジメント実現のために作成された改善ステップ、マネジメントの基本の考え方などを示して頂いた。
- ④国内製造拠点の役割をマザー工場として位置づけるためには、徹底したモノづくりが必要となる。NECパーソナルプロダクツ(株)の郡山氏、若月氏には、中国と競争するのではなく、国際分業体制を構築し、国内拠点をグローバル・バリューチェーンの起点とするマザー・ファクトリーへの取り組みについて紹介して頂いた。戦略商品の開発生産に集中するとともに、生産計画から調達・製造・出荷まですべてのプロセスを通したトータルでの競争力強化の観点で取り組んだ「生産革新」、「物流革新」、「IT革新」について示して頂いた。
- ⑤(株)リコーの永田氏には、御殿場事業所における改善活動のなかで、請負作業者の人材育成について紹介して頂いた。高技能社員の活用によるショップ活動は、徹底した改善と人材育成を有機的に結びつけ、改善を加速させるユニークな取り組みである。
- ⑥徹底したモノづくりにおける技能の伝承や人材育成はどのようにすればよいのであろうか。セイコーエプソン(株)の渡辺氏には、「モノづくり力」伝承に向けた独自のモノづくりの蓄積と継承、人材の育成について、標準化という考えを紹介して頂いた上で、“人財のDNA化”を実現する育成プログラムなどを具体的に示して頂いた。
- ⑦(株)ミツバの佐々木氏、棚橋氏には、QCDにおけるマザー工場となるためにやるべきこととして、W-TPM(TPマネジメントとTPM)と生産革新活動を融合させ、常に進化し続ける強い工場造りについて紹介して頂いた。工場長のあるべき姿を掲げ、それを達成するために階層別マネジメントが行われている。さらに、全体最適で儲かるための生産革新活動において、極限を追求したライン改善とリアルタイムマネジメントによる工場経営について紹介して頂いた。
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プリズム
本号では、特集テーマに関わる情報提供として、4件のプリズムを掲載した。①(株)付加価値経営研究所の関根氏には、工程ばらしの考え方を用いた改善事例を紹介して頂いた。②日本リーバ(株)の大場氏には、グローバル生産体制のなかで、継続的改善の内容と成果を紹介して頂いた。③新栄デザイン総合技術士事務所の高松氏には、競争力をつけるためのISOの活用法を、事例を交えて具体的に紹介して頂いた。④(株)矢野経済研究所の秋吉氏には、ダンの事例を参照しながら、SCM改善と「日本製」というブランドの意味について述べて頂いた。 -
研究ノート
本号の特集記事ではないが、国内モノづくりの活性化に関する研究ノートが投稿され、審査を経て掲載されている。現場改善を徹底し継続していくことの大切さ、それを支える教育とマネジメントの重要性が、事例調査に基づいて具体的に述べられている。
篠田 心治・河野 宏和/企画担当編集委員
【論壇】国際競争を乗り切る国内モノづくりのあり方
トヨタ自動車(株)の安川氏には、中国のモノづくりの発展と特徴、日本のモノづくりの現状と復権を踏まえ、国内生産における圧倒的競争力を確保し、自動車業界の「国内空洞化」を防ぐために“4次元サプライチェーン改革”という考え方を示し、4つの次元の意味について、具体的な活動内容も含めて簡潔・明快に紹介していただいている。特に、新技術/新製品、新生産技術/新工法、開発リードタイム、生産/供給リードタイムという4次元の経営指標を改善していくための第1ステップが「ムダの見える化」であるという主張は、改めて本質を重視する考え方の大切さを伝えてくれる迫力がある。最後に、「モノづくりは人づくり」であるという考えに立って、心・頭・体のパワーアップの重要性が述べられている。
【ケース・スタディ】工芸品から工業品を目指したモノづくり改革
徹底した改善において、改善の範囲を全体まで広げることが重要である。車のステアリングホイールのなかで、ウッドハンドルは、特殊な技能を必要とすることから、いくつもの生産拠点を経て生産される。(株)東海理化の恒川氏、河原崎氏には、工芸品とも言えるウッドハンドルの生産について、1次・2次仕入先まで含めた生産工程全体を一貫してシンプル化する改善について紹介して頂いた。
【ケース・スタディ】材料調達を基軸とした市場対応モノづくりの構築
調達における徹底したモノづくりはどうあるべきだろうか。松下電器産業(株)の伊藤氏、辻氏、面田氏には、製造工程でフレキシブルなモノづくり体制が確立されつつあるなか、サプライヤーから工場までPull要求に基づいた一気通貫の仕組みについて、TV事業での事例を紹介して頂いた。コンサイメント倉庫(VMI)の導入、仕入先との情報共有Webの構築、納品・配膳システムなど、Pull要求にこたえる一貫した材料調達の仕組みづくりについて述べられている。
【ケース・スタディ】現場マネジメント革新を生み出したTプロジェクト活動
徹底したモノづくりを行うためには、製造・物流といったハードの構築以外に何が必要だろうか。長浜キヤノン(株)の丹治氏には、徹底した製造物流改善(Tプロジェクト活動)を通じて生み出されたマネジメント革新とその重要性について紹介して頂いた。Tプロジェクトによる徹底した製造物流改善とともに、現場マネジメント実現のために作成された改善ステップ、マネジメントの基本の考え方などを示して頂いた。
【ケース・スタディ】グローバル時代のなかでのパソコン事業のモノ作り戦略
国内製造拠点の役割をマザー工場として位置づけるためには、徹底したモノづくりが必要となる。NECパーソナルプロダクツ(株)の郡山氏、若月氏には、中国と競争するのではなく、国際分業体制を構築し、国内拠点をグローバル・バリューチェーンの起点とするマザー・ファクトリーへの取り組みについて紹介して頂いた。戦略商品の開発生産に集中するとともに、生産計画から調達・製造・出荷まですべてのプロセスを通したトータルでの競争力強化の観点で取り組んだ「生産革新」、「物流革新」、「IT革新」について示して頂いた。
【ケース・スタディ】高効率・高フレキシビリティ生産に向けての人材づくり
(株)リコーの永田氏には、御殿場事業所における改善活動のなかで、請負作業者の人材育成について紹介して頂いた。高技能社員の活用によるショップ活動は、徹底した改善と人材育成を有機的に結びつけ、改善を加速させるユニークな取り組みである。
【ケース・スタディ】見えざる資産を蓄積・継承することによるものづくり力の強化をめざして
徹底したモノづくりにおける技能の伝承や人材育成はどのようにすればよいのであろうか。セイコーエプソン(株)の渡辺氏には、「モノづくり力」伝承に向けた独自のモノづくりの蓄積と継承、人材の育成について、標準化という考えを紹介して頂いた上で、“人財のDNA化”を実現する育成プログラムなどを具体的に示して頂いた。
【ケース・スタディ】2005年に生き残る進化し続ける強い工場づくり
(株)ミツバの佐々木氏、棚橋氏には、QCDにおけるマザー工場となるためにやるべきこととして、W-TPM(TPマネジメントとTPM)と生産革新活動を融合させ、常に進化し続ける強い工場造りについて紹介して頂いた。工場長のあるべき姿を掲げ、それを達成するために階層別マネジメントが行われている。さらに、全体最適で儲かるための生産革新活動において、極限を追求したライン改善とリアルタイムマネジメントによる工場経営について紹介して頂いた。
【プリズム】IEとは芸術作品である/【プリズム】ワールドクラスのSCを構築するための国内製造部門の対応/【プリズム】ISOと経営革新/【プリズム】SCMで顧客対応のスピードを向上させた(株)ダン
本号では、特集テーマに関わる情報提供として、4件のプリズムを掲載した。①(株)付加価値経営研究所の関根氏には、工程ばらしの考え方を用いた改善事例を紹介して頂いた。②日本リーバ(株)の大場氏には、グローバル生産体制のなかで、継続的改善の内容と成果を紹介して頂いた。③新栄デザイン総合技術士事務所の高松氏には、競争力をつけるためのISOの活用法を、事例を交えて具体的に紹介して頂いた。④(株)矢野経済研究所の秋吉氏には、ダンの事例を参照しながら、SCM改善と「日本製」というブランドの意味について述べて頂いた。
【研究ノート】日本における国内生産活性化に向けての一考察
本号の特集記事ではないが、国内モノづくりの活性化に関する研究ノートが投稿され、審査を経て掲載されている。現場改善を徹底し継続していくことの大切さ、それを支える教育とマネジメントの重要性が、事例調査に基づいて具体的に述べられている。