わが社の設備づくり


2008年12月 258号発行:2008年12月1日
  • 巻頭言


    世界に信頼を深める設備・モノづくり
    岩月伸郎/(株)デンソー
  • 特集テーマのねらい(特集記事)


    わが社の設備づくり
    日下部勝/企画担当編集委員
  • 論壇(特集記事)


    わが社の装置づくり
    海野幹夫/シチズン平和時計(株)
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    よく働く設備づくり
    緒形利夫/(株)日立産機システム
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    iFA活動におけるわが社の設備づくり
    櫻井智則/日産自動車(株)
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    日本固有技能の伝承・発展によるモノ創りの原点追求
    池田重晴/アイシン・エイ・ダブリュ(株)
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    工程集約を基本にした複合加工機での戦略的設備づくり
    熊谷栄治/(株)ヤマザキマザック美濃加茂製作所
    概要
  • プリズム(特集記事)


    からくり人形
    鈴木一義/独立行政法人国立科学博物館
    概要
  • プリズム(特集記事)


    「モノづくりは道具づくり」のイレクターシステム
    野嶋康則/矢崎化工(株)
    概要
  • 会社探訪


    地球環境にやさしい設備づくり-イビデン(株)-
    レポーター弘中史子/滋賀大学
  • 現場改善


    企業価値向上への取り組み
    松野裕二/(株)仙台ニコン
  • ビットバレーサロン


    現場でできる物流改善(上)
    花房陵/(株)イーソーコ総合研究所
  • レポート


    中国天津生産性向上活動見聞録
    植木憲二/日本IE協会
  • コラム(53)

  • 新刊紹介

  • 協会ニュース

  • 編集後記

背景


最近の経済情勢は、サブプライムローン問題に端を発した世界的な金融不安、石油、希少金属を始めとする資源の高騰、トウモロコシ、大豆などの食糧高騰など、世界的な大問題を抱え、大変厳しい状況にある。日本企業にとっても、来年3月期の業績見通しを下方修正するなど、その厳しさがすでに現れ始めている。とりわけ、多くの外貨を稼いできた製造業にとっては大きな試練となっている。こうした環境下、今後もグローバルな競争を打ち勝っていくためには、他社との差別化を一段と推し進めることが重要である。他社との差別化には、性能、機能、デザインといった製品の差別化とともに、生産技術、生産方式など、製造面での差別化が重要である。今回は、「わが社の設備づくり」と題し、生産技術、製造面の差別化のなかから各社の設備開発や治工具改善を取り上げ、それらの内製化の取り組みを特集する。

ねらい


本特集は、設備開発と治工具改善を対象としている。このうち設備開発は、新しい技術あるいは独自の経験、ノウハウを組み入れた設備の開発、または、いかにそうした設備を安く作るかといった取り組みを取り上げる。また、生産ラインの流れを円滑にするための設備、治工具づくりには、少人化のための設備開発や人の動作をアシストする治工具の改善、さらには生産順序に同期したマテハン機器の開発などの取り組みを特集する。設備、治工具を内製化する意義として、以下の4点が考えられる。第1は、設備開発、治工具改善に関する過去からの知恵、ノウハウを自社内に蓄積することで生産技術、製造面の一層の差別化、さらに言えば、生産性の向上、競争力の向上が見込まれることである。いわゆる、ブラックボックス化である。このことは製造面に留まらず、製品面の差別化にも大いに繋がる。第2は、内製化した設備、治工具であるために、それらの保守、点検、修理を、自前で行えるということである。このことは使い勝手のよい、メンテナンスのしやすい(あるいはメンテナンスフリーな)設備、治工具の開発に繋がる。第3は、製品を作りやすい設備、治工具とはどういうものか、設計部門と製造部門が密に連携することにより、製品開発のリードタイム短縮が図れることである。すなわち、製品開発のフロントローディングに寄与するということである。裏返して言えば、設備づくりには設計部門、製造部門の協力が欠かせないということであり、設備開発を行う組織をつくる際に留意すべき点である。第4は、内製化した設備、治工具を用いて、自社製品を生産することにより、自社内の付加価値を増大させることである。これは、経営的な観点から差別化を捉える際に大変重要となる。このように、設備、治工具の内製化は大変重要なことであるが、コストが掛かり過ぎたのでは意味がない。知恵を絞って、安い設備を作ることを忘れてはならない。しかし一方で、すべての設備を自前で製作することには、コスト面、マンパワーの面で無理があるのも事実であり、外部メーカーからの設備購入や設備専業メーカーとのコラボレーションが必要となってくる場合もある。今後さらに技術開発競争が激化するなかで、設備の内製化と設備専業メーカーとのコラボレーションとのバランスが重要になってくる。以上のような、設備、治工具の内製化の意義や課題を踏まえ、各社がどのように対応しようとしているかを今回特集した。競争力のコアとなる部分にもかかわらず、自動車関連などの組立型メーカー、産業機器の組立型メーカー、設備専業メーカーから寄稿いただいた。ご協力に感謝するとともに、ぜひ読者の皆様が設備開発する際の参考としていただきたい。

記事について


  • 論壇


    シチズン平和時計の海野幹夫代表取締役社長に設備づくりについての考え方を寄稿して頂いた。「何を作るのか」ではなく「どう作るのか」を追求してきたモノづくり会社として、環境が変化するなか、過去から積上げてきた技術と技能を融合させ、新たな智慧を吹き込み、付加価値を生み続けてこられた。設備についても同様で、信頼性向上や市場要求に応えるため、飽くなき改善・改良を積み重ねてこられた。すなわち、古い設備も進化させてきた。こうした思いを貫いてこられた、海野社長に「マイクロ化」をキーワードとした独自の設備づくりの考え方を紹介していただいた。
  • ケース・スタディ


    • ①日立産機システムは、産業機器の設計、製造、販売を行っている会社だが、ここでは「よく働く設備づくり」を念頭に変圧器を中心とした多品種大物生産対応の自動化の取り組みについて紹介していただいた。過剰設備にならぬよう、常に製品設計部門と連携をとること、現場巡視などを通じ、設備に対するニーズを的確につかむこと、さらに、考えて考えて考え抜く、強い執念が重要であることなど、設備づくりにかける思いを熱く語っていただいた。
    • ②日産自動車では、安価な自動化とモノの流れの改善をキーワードとしたiFA(integrated Factory Automation)と呼ばれるコスト低減活動が推進されており、この考え方に沿った設備開発について紹介いただいた。特に設備開発の投資を削減するため、「付加価値だけでモノを作るためには」という発想を重視し、ムダの抽出レベルを上げて、ムダな作業をそのまま設備化しないよう取り組んでいる。
    • ③アイシン・エイ・ダブリュは、自動車用オートマチックトランスミッション、カーナビゲーションを設計、製造する組立型産業のメーカーである。モノ(器械)創りの原点ともいうべき池田流「無動力・ナガラ」思想とそれが生まれた経緯、さらには、それを具現化するために設立された「ものづくりセンター」での器械創りの様子を紹介いただいた。特に著者が子供のころ、夏祭りで観たからくり人形に影響され、以来、無動力器械に拘り続けたという一節から、設備づくりの熱い思いが伝わってくる。
    • ④ヤマザキマザック美濃加茂製作所からは、近年、工作機械の主流となっている複合加工機を中心に、装置メーカーとしての設備づくりに対する考え方を紹介していただいた。工程集約を基本にした複合加工機は、1個流しを理想とした少量多品種生産時代に適した加工設備であること、顧客の声をより早くより正確に取り入れるために「加工工場はショールーム」という概念が重要であることが述べられている。
  • プリズム


    今回の特集記事に関連し、2人の方から寄稿していただいた。
    • ①国立科学博物館の鈴木一義氏は、7世紀頃から時の権力者が精力的に摂取し始めた大陸の文化、技術のなかに、からくり技術が含まれていることを指摘し、以降、日本の風土に根ざしながら、時計技術、舞台技術、さらには、現在のロボット技術へと発展してきた様を紹介していただいた。
    • ②矢崎化工の野嶋康則氏には、イレクターシステムの紹介をしていただいた。原価の掛からないモノづくりをめざし、新機能パイプや、からくりジョイントなどの開発を推進している。
    今回の特集に寄稿していただいた各社の皆さんから、モノづくりによる他社との差別化のコアとなる設備づくりについて、大変熱い思いが伝わってきた。そして、その思いを後継者に伝承する取り組みが、各社で行われていることがわかった。最終的には「設備づくりも人づくり」ということである。江戸時代のからくり人形に見られるように、日本人は昔から精巧な細工を作ることが得意であった。これは、手先の器用さ、几帳面さといった日本人の国民性に根ざしたものであり、今日の設備開発、治工具改善にもこうした伝統が息づいていると思う。厳しいグローバル競争を勝ち抜くために、今後とも日本の製造業は、こうした特質を活かした事業活動を行うことが重要であり、同時に、それを担う人材の育成を強力に推進していくことが肝要である。
日下部 勝/企画担当編集委員

【論壇】わが社の装置づくり


シチズン平和時計の海野幹夫代表取締役社長に設備づくりについての考え方を寄稿して頂いた。「何を作るのか」ではなく「どう作るのか」を追求してきたモノづくり会社として、環境が変化するなか、過去から積上げてきた技術と技能を融合させ、新たな智慧を吹き込み、付加価値を生み続けてこられた。設備についても同様で、信頼性向上や市場要求に応えるため、飽くなき改善・改良を積み重ねてこられた。すなわち、古い設備も進化させてきた。こうした思いを貫いてこられた、海野社長に「マイクロ化」をキーワードとした独自の設備づくりの考え方を紹介していただいた。

【ケース・スタディ】よく働く設備づくり


日立産機システムは、産業機器の設計、製造、販売を行っている会社だが、ここでは「よく働く設備づくり」を念頭に変圧器を中心とした多品種大物生産対応の自動化の取り組みについて紹介していただいた。過剰設備にならぬよう、常に製品設計部門と連携をとること、現場巡視などを通じ、設備に対するニーズを的確につかむこと、さらに、考えて考えて考え抜く、強い執念が重要であることなど、設備づくりにかける思いを熱く語っていただいた。

【ケース・スタディ】iFA活動におけるわが社の設備づくり


日産自動車では、安価な自動化とモノの流れの改善をキーワードとしたiFA(integrated Factory Automation)と呼ばれるコスト低減活動が推進されており、この考え方に沿った設備開発について紹介いただいた。特に設備開発の投資を削減するため、「付加価値だけでモノを作るためには」という発想を重視し、ムダの抽出レベルを上げて、ムダな作業をそのまま設備化しないよう取り組んでいる。

【ケース・スタディ】日本固有技能の伝承・発展によるモノ創りの原点追求


アイシン・エイ・ダブリュは、自動車用オートマチックトランスミッション、カーナビゲーションを設計、製造する組立型産業のメーカーである。モノ(器械)創りの原点ともいうべき池田流「無動力・ナガラ」思想とそれが生まれた経緯、さらには、それを具現化するために設立された「ものづくりセンター」での器械創りの様子を紹介いただいた。特に著者が子供のころ、夏祭りで観たからくり人形に影響され、以来、無動力器械に拘り続けたという一節から、設備づくりの熱い思いが伝わってくる。

【ケース・スタディ】工程集約を基本にした複合加工機での戦略的設備づくり


ヤマザキマザック美濃加茂製作所からは、近年、工作機械の主流となっている複合加工機を中心に、装置メーカーとしての設備づくりに対する考え方を紹介していただいた。工程集約を基本にした複合加工機は、1個流しを理想とした少量多品種生産時代に適した加工設備であること、顧客の声をより早くより正確に取り入れるために「加工工場はショールーム」という概念が重要であることが述べられている。

【プリズム】からくり人形


国立科学博物館の鈴木一義氏は、7世紀頃から時の権力者が精力的に摂取し始めた大陸の文化、技術のなかに、からくり技術が含まれていることを指摘し、以降、日本の風土に根ざしながら、時計技術、舞台技術、さらには、現在のロボット技術へと発展してきた様を紹介していただいた。

【プリズム】「モノづくりは道具づくり」のイレクターシステム


矢崎化工の野嶋康則氏には、イレクターシステムの紹介をしていただいた。原価の掛からないモノづくりをめざし、新機能パイプや、からくりジョイントなどの開発を推進している。