サービス産業におけるIEの活用


2010年5月 265号発行:2010年5月1日
  • 巻頭言


    モノづくり力強化を担うIE人財の育成と活用
    室町正志/日本IE協会副会長・(株)東芝
  • 特集テーマのねらい(特集記事)


    サービス産業におけるIEの活用
    伊呂原隆/企画担当編集委員
  • 論壇(特集記事)


    サービス産業の生産性向上とIE
    吉本一穗/早稲田大学
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    クリーニング業における平準化の取り組み
    嶋田喜明/(株)喜久屋
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    病院におけるIE技術の活用
    井手下久登/医療法人社団いでした内科・神経内科クリニック 稲田周平/慶応義塾大学
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    医療サービス産業におけるIEの活用事例
    神野正博/社会医療法人財団 董仙会恵寿総合病院
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    自治体経営における生産性の向上
    山口重則 中山雄二/静岡県庁 斎藤文/産業能率大学
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    至高のサービスを支えるハードとソフト
    鳥本政雄/(株)加賀屋 三原一郎/金沢工業大学
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    ムリ・ムダ・ムラを排除した開店準備作業
    久保聡志/(株)サイゼリヤ 伊呂原隆/上智大学
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    中華鍋の操作を対象とした技能動作指導戦略の分析事例
    水山元/京都大学
    概要
  • プリズム(特集記事)


    サービス産業にも製造業のノウハウを
    浅野哲平/経済産業省
    概要
  • 連載講座


    生産システムの革命[Ⅴ]
    手島歩三/(特非)技術データ管理支援協会
  • 会社探訪


    同期・同調一貫生産ラインの構築 -パラマウントベッド(株)千葉工場-
    レポーター 坂爪裕/慶応義塾大学
  • 現場改善


    「革新/改善」活動の体質化に向けた実践と仕組みづくり
    長谷川啓/クノール食品(株)
  • ビットバレーサロン


    改善活動の定着化(下)
    杉浦正邦/T・IE実践研究所
  • コラム(60)

  • 協会ニュース

  • 新刊紹介

  • 編集後記

特集テーマのねらい


テイラーの『科学的管理法の原理』[1]出版からちょうど100年が経過しようとしている。時間研究や動作研究などに代表される科学的管理法を基礎とするインダストリアル・エンジニアリング(IE)は、これまで、主に製造業のモノづくり現場における作業改善などで大きな成果を上げてきた。本誌でも、様々な製造業における数多くのIE活用事例がケース・スタディとして紹介され、その有用性が繰り返し語られてきた。しかしながら、GDPや雇用ベースで日本経済の7割近くを占めるといわれ、今後も大きな発展が期待されているサービス産業におけるIEの活用については、あまり多くは報告されてこなかった。製造業と比べて、その生産性が相対的に低いことが指摘されているサービス産業においてこそ、今まさに改善手法・効率化手法として実績があるIEの活用が期待されているのではないだろうか。そこで、この特集では、IE的な発想にもとづいて様々な成果を上げているサービス産業について、以下のような視点の記事をまとめてみたいと考えた。
  • ・クリーニング業で洗濯のロットサイズを小さくし顧客単位での洗浄管理を導入することによって短納期が実現された。
  • ・病院で徹底した「ムダ取り」を行うことによって、業務プロセスが改善され患者の診察時間が短くなった。
  • ・地方自治体において「行政の生産性向上」を志向した結果、真に県民のための行政サービスにつながった。
  • ・ホテル旅館などの宿泊業で、改善活動が日々の業務の一部として定着し、大勢の従業員の作業負荷の平準化や顧客満足度の向上が実現された。
  • ・レストランでのクレーム対応として、IE視点で人・物・設備という観点から詳細な要因分析、改善策の検討を行ったところ、顧客満足度がかなり向上した。
  • ・料理学校で動作分析の手法を導入したところ、料理方法の習得効率が格段に向上した。

記事の構成


上記のねらいに沿って、本号では、以下の論壇1件、ケース・スタディ7件、プリズム1件の記事を掲載している。主な内容を要約しておこう。
  • 論壇


    早稲田大学の吉本一穗先生に、「サービス産業の生産性向上とIE」と題して執筆いただいた。吉本先生には、経済産業省のサービスプロセス委員会の委員長を務められた経験にもとづき、わが国におけるサービス業の生産性向上が急務であること、そして、それを実現するためには、これまでに製造業で実績を上げてきたIEをはじめとする分析・設計・管理技術の活用が強く望まれることをまとめていただいた。
  • ケース・スタディ


    • ①喜久屋の嶋田喜明氏に、「クリーニング業における平準化の取り組み」と題して執筆いただいた。喜久屋では、従来のクリーニング工場で行われていた短時間による集中・大量処理方式を根本から見直し、「必要なもの(クリーニング対象物)を、必要な時に、必要な分だけ仕上げる」という方式に変更した。これにより、クリーニング工場の平準化が実現され、クリーニング品質および生産性が大幅に向上した。このようなことが実現された背景には、クリーニングにおける在庫や納期というものに対する考え方の転換がある。企業側の思い込みを改め、顧客が本当に望んでいるものは何なのかを考えることの重要性を気づかせてくれる。
    • ②医療法人社団いでした内科・神経内科クリニックの井手下久登氏と慶応義塾大学の稲田周平先生には、「病院におけるIE技術の活用-人間力の向上と最善のサービス品質の提供をめざして-」と題して執筆いただいた。同院は日本生産性本部サービス生産性協議会が主催する「第1回ハイ・サービス日本300選」に、医療・介護部門で選ばれており、数多くの先進的な取り組みがなされている。例えば利用者の待ち時間短縮のために、ビデオ分析により利用者の流れとカルテの流れの連携状況を調査したり、カルテを扱う職員の作業上の問題点をタイム・スタディにより検討したりしている。
    • ③社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院の神野正博氏に、「医療サービス産業におけるIEの活用事例」と題して執筆いただいた。日本の医療にもサービス産業としてIEの考え方にもとづく効率化の遡及と改善活動が必要であるとの考えのもと、恵寿総合病院におけるIEの活用事例を多数紹介いただいた。例えば、診療材料における取り組みでは、トヨタ自動車のカンバン方式の考え方などを導入し、業務削減効果、在庫削減効果、材料費削減効果を合わせて、システム導入から4年4か月後には3億7千万円の効果を出している。「これからのIEは、ムダ取り、改善ばかりではなく、いかに顧客が興味を引く情報を見せるかである」とのご指摘は、今回の特集テーマには限らずに、今後のIEの進むべき方向を考えるにあたり大変貴重なご意見である。
    • ④静岡県庁の山口重則氏、中山雄二氏と産業能率大学の斎藤文先生には、「自治体経営における生産性の向上」と題して執筆いただいた。地方自治体を取り巻く環境が年々厳しさを増すなかで、静岡県でもこれまでに数多くの取り組みに着手してきたが、その多くは「人を減らす」「予算を減らす」ことなどが優先された短期的・断片的な節約型の改善活動が主体であった。しかしながら、このようなアプローチでは活動は長続きせず、真に県民のための行政サービスにはつながっていなかった。そこで、コストをかけずに行政サービスの質を向上させるという「行政の生産性向上」をめざすことに発想を転換した。具体的には、「業務棚卸表」や「ひとり1改革運動」などを実践導入することにより、サービス向上に大きな成果を上げている。
    • ⑤加賀屋の鳥本政雄氏と金沢工業大学の三原一郎氏には、「至高のサービスを支えるハードとソフト」と題して執筆いただいた。前述の「第1回ハイ・サービス日本300選」で「おもてなしを裏で支えるロボットの細腕」と紹介された配膳用ワゴン搬送システムが紹介されている。客室係が疲れていてはよいサービスは提供できないということで、同社が大切にしている「正確性」と「ホスピタリティ」というソフトは様々なハードによって支えられている。
    • ⑥サイゼリヤの久保聡志氏には、私との連名という形で「ムリ・ムダ・ムラを排除した開店準備作業」と題して執筆いただいた。製造業では、各工場における小集団活動のなかからボトムアップで改善提案がなされていくのが一般的であるが、同社では、社長直轄のエンジニアリング部が改善活動を統括し、トップダウンによる改善が行われている。部分最適を避け効率よく全体最適をめざすためには大変有効なアプローチである。
    • ⑦京都大学の水山元先生に、「中華鍋の操作を対象とした技能動作指導戦略の分析事例」と題して執筆いただいた。中華鍋の操作を対象として、モーションキャプチャ装置を利用した動作分析を行い、優れた指導者が無意識に行っている技能動作の指導戦略を分析している。この事例は、熟練作業者の暗黙知を形式知化するための具体的な方法を提案しており、調理方法の技能動作のみならず、様々な製造業においても多くの企業が頭を悩ませている技能伝承の問題解決に、大きな役割を果たすことが期待される。
  • プリズム


    経済産業省の浅野哲平氏には「サービス産業にも製造業のノウハウを」と題して、執筆いただいた。ここでは、サービス産業生産性協議会における取り組みのなかから「サービスプロセス改善事例開発事業」について紹介いただいた。

おわりに


この特集号を通して、100年間に渡り主に製造業において培われてきたIE手法が、サービス産業においては今どのように適用され、そして評価をされているのかについて考える機会となり、読者諸兄の参考になれば幸いである。最後になるが、大変お忙しいなかご寄稿を頂いたすべての執筆者に心より感謝申し上げる。
【参考文献】
[1]Frederick Winslow Tayler “The Principles of Scientific Management” Harper & Brothers(1911年)
伊呂原 隆/企画担当編集委員

【論壇】サービス産業の生産性向上とIE


早稲田大学の吉本一穗先生に、「サービス産業の生産性向上とIE」と題して執筆いただいた。吉本先生には、経済産業省のサービスプロセス委員会の委員長を務められた経験にもとづき、わが国におけるサービス業の生産性向上が急務であること、そして、それを実現するためには、これまでに製造業で実績を上げてきたIEをはじめとする分析・設計・管理技術の活用が強く望まれることをまとめていただいた。

【ケース・スタディ】クリーニング業における平準化の取り組み


喜久屋の嶋田喜明氏に、「クリーニング業における平準化の取り組み」と題して執筆いただいた。喜久屋では、従来のクリーニング工場で行われていた短時間による集中・大量処理方式を根本から見直し、「必要なもの(クリーニング対象物)を、必要な時に、必要な分だけ仕上げる」という方式に変更した。これにより、クリーニング工場の平準化が実現され、クリーニング品質および生産性が大幅に向上した。このようなことが実現された背景には、クリーニングにおける在庫や納期というものに対する考え方の転換がある。企業側の思い込みを改め、顧客が本当に望んでいるものは何なのかを考えることの重要性を気づかせてくれる。

【ケース・スタディ】病院におけるIE技術の活用


医療法人社団いでした内科・神経内科クリニックの井手下久登氏と慶応義塾大学の稲田周平先生には、「病院におけるIE技術の活用-人間力の向上と最善のサービス品質の提供をめざして-」と題して執筆いただいた。同院は日本生産性本部サービス生産性協議会が主催する「第1回ハイ・サービス日本300選」に、医療・介護部門で選ばれており、数多くの先進的な取り組みがなされている。例えば利用者の待ち時間短縮のために、ビデオ分析により利用者の流れとカルテの流れの連携状況を調査したり、カルテを扱う職員の作業上の問題点をタイム・スタディにより検討したりしている。

【ケース・スタディ】医療サービス産業におけるIEの活用事例


社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院の神野正博氏に、「医療サービス産業におけるIEの活用事例」と題して執筆いただいた。日本の医療にもサービス産業としてIEの考え方にもとづく効率化の遡及と改善活動が必要であるとの考えのもと、恵寿総合病院におけるIEの活用事例を多数紹介いただいた。例えば、診療材料における取り組みでは、トヨタ自動車のカンバン方式の考え方などを導入し、業務削減効果、在庫削減効果、材料費削減効果を合わせて、システム導入から4年4か月後には3億7千万円の効果を出している。「これからのIEは、ムダ取り、改善ばかりではなく、いかに顧客が興味を引く情報を見せるかである」とのご指摘は、今回の特集テーマには限らずに、今後のIEの進むべき方向を考えるにあたり大変貴重なご意見である。

【ケース・スタディ】自治体経営における生産性の向上


静岡県庁の山口重則氏、中山雄二氏と産業能率大学の斎藤文先生には、「自治体経営における生産性の向上」と題して執筆いただいた。地方自治体を取り巻く環境が年々厳しさを増すなかで、静岡県でもこれまでに数多くの取り組みに着手してきたが、その多くは「人を減らす」「予算を減らす」ことなどが優先された短期的・断片的な節約型の改善活動が主体であった。しかしながら、このようなアプローチでは活動は長続きせず、真に県民のための行政サービスにはつながっていなかった。そこで、コストをかけずに行政サービスの質を向上させるという「行政の生産性向上」をめざすことに発想を転換した。具体的には、「業務棚卸表」や「ひとり1改革運動」などを実践導入することにより、サービス向上に大きな成果を上げている。

【ケース・スタディ】至高のサービスを支えるハードとソフト


加賀屋の鳥本政雄氏と金沢工業大学の三原一郎氏には、「至高のサービスを支えるハードとソフト」と題して執筆いただいた。前述の「第1回ハイ・サービス日本300選」で「おもてなしを裏で支えるロボットの細腕」と紹介された配膳用ワゴン搬送システムが紹介されている。客室係が疲れていてはよいサービスは提供できないということで、同社が大切にしている「正確性」と「ホスピタリティ」というソフトは様々なハードによって支えられている。

【ケース・スタディ】ムリ・ムダ・ムラを排除した開店準備作業


サイゼリヤの久保聡志氏には、私との連名という形で「ムリ・ムダ・ムラを排除した開店準備作業」と題して執筆いただいた。製造業では、各工場における小集団活動のなかからボトムアップで改善提案がなされていくのが一般的であるが、同社では、社長直轄のエンジニアリング部が改善活動を統括し、トップダウンによる改善が行われている。部分最適を避け効率よく全体最適をめざすためには大変有効なアプローチである。

【ケース・スタディ】中華鍋の操作を対象とした技能動作指導戦略の分析事例


京都大学の水山元先生に、「中華鍋の操作を対象とした技能動作指導戦略の分析事例」と題して執筆いただいた。中華鍋の操作を対象として、モーションキャプチャ装置を利用した動作分析を行い、優れた指導者が無意識に行っている技能動作の指導戦略を分析している。この事例は、熟練作業者の暗黙知を形式知化するための具体的な方法を提案しており、調理方法の技能動作のみならず、様々な製造業においても多くの企業が頭を悩ませている技能伝承の問題解決に、大きな役割を果たすことが期待される。

【プリズム】サービス産業にも製造業のノウハウを


経済産業省の浅野哲平氏には「サービス産業にも製造業のノウハウを」と題して、執筆いただいた。ここでは、サービス産業生産性協議会における取り組みのなかから「サービスプロセス改善事例開発事業」について紹介いただいた。