サービス産業のIE


2012年5月 275号発行:2012年5月1日
  • 巻頭言


    試練を越えて
    広崎膨太郎/日本IE協会副会長・NEC
  • 特集テーマのねらい(特集記事)


    サービス産業のIE
    加山一郎/企画担当編集委員
  • ケース・スタディ(特集記事)


    中国料理「桂花苑」における改善活動(レストラン)
    中村裕/(株)ロイヤルパークホテルズ アンドリゾーツ インタビュアー:坂爪裕/慶応義塾大学
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    トヨタ生産方式の導入による業務効率の実現(ネット販売)
    野村政弘/ネットオフ(株) インタビュアー:稲田周平/慶応義塾大学
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    TQM活動とKaizenワークショップ(病院)
    福村文雄 田原和幸 立石奈々/(株)麻生 飯塚病院 インタビュアー:加山一郎/アズビル京都(株)
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    CS向上と効率化の両立に向けて(保守サービス)
    武村賢三 及川健弘 小林広和/NECフィールディング(株) インタビュアー:市来嵜治/慶応義塾大学
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    日本一のブランドサロンをめざした改善活動(美容室)
    柿本哲/(株)柿本榮三美容室 インタビュアー:稲田周平/慶応義塾大学
    概要
  • 連載講座


    アセアンのクロスボーダー輸送[Ⅱ]
    大出一晴/(株)日通総合研究所
  • 現場改善


    グローバル化に対応したセル*コンセプト生産革新の推進
    荒川賢一/(株)日立製作所
  • ビットバレーサロン


    注目されるインドビジネス(上)
    Prem Motwani/Jawaharlal Nehru University
  • 研究論文


    グローバル生産を支える海外生産現場のチームワーク構造
    野渡正博/玉川大学
  • コラム(70)

  • 協会ニュース

  • 編集後記

特集テーマのねらい


IE(インダストリアル・エンジニアリング)はその名の通り「工業」「産業」という分野の技術として捉えられがちである。フレデリック・テイラーの「科学的管理法」に端を発し、企業や工場における生産性の向上を図るための学問分野として一般には知られている。主に製造業の現場において時間計測・作業分析を行い、仕事のやり方や時間の使い方を工夫して価値を最大限に活かしていこうという取り組みは、国内の工場では広く行き渡っている。そのため、産業別でいえば製造業である第2次産業主体というイメージが色濃いと思われるが、現在では、サービス産業などでもその活用が幅広くされ、組織活動として定着している企業も少なくない。近年、国内の産業構造も、IEが導入された時代と比較して変化してきている。現在、日本の産業構造を見てみると、第2次産業は全体の1/4程度であり、第3次産業に関しては7割以上を占めている。1955年ごろと比較すると第3次産業の比率(国民総生産のうち各産業が占める割合)は4割から7割に増加している。'00年代に入っての産業別就業者集の増加率は、製造業/農林漁業/建設業ではマイナスであるのに対し、サービス産業/運輸・通信業についてはプラスである。このようななか、IEの分野も製造業の域にとらわれず、第3次産業へと拡大している。IE的なアプローチは、サービス産業でも製造業と同じように活用して成果をあげることができる。製造業では、対象のワークに形状的変化などでニーズにあった新たな価値を与えることを「付加価値をつける」と表現するが、サービス産業でも「付加価値」は明確に定義できる。例えば、医療では正に治療をしている瞬間であるし、散髪店では髪を切っている瞬間である。その他の作業はいわゆる「付加価値を生まないムダ」といえるが、その「付加価値を生まない」動きを、知恵を絞り、なんらかの方策で減らしていくことが生産性を上げていく。そのアプローチは、まさにIE的アプローチそのものである。他にも、5S活動やレイアウト変更による動線改善、多能工化(マルチタレント化)などが多くのサービス部門の現場で活用されている。最近の記事のなかでも、病院、クリーニング業、サービス産業で実際に実践されたIE活動の紹介が増えてきており、その活用が工夫を凝らされ大変参考になる記事も多い。今回は、「サービス産業のIE」というテーマで、製造業以外のサービス産業でIEを活用し、付加価値の増大を図り効果を上げてきた事例について特集している。本号では、サービス業の現場のなかで改善手法を活用し、工夫を凝らしながら生産性を向上させた実際の事例を紹介する。さらに、今回の特集はサービス産業にフォーカスを当てたものであり、お客様に与える「価値」を、どのように定義して活動をしてきたかを、実際に筆者にインタビューでお聞きした。お客様へのサービスを価値として重んじるサービス産業の視点は、製造業においても非常に参考になろう。

記事の紹介


  • ケース・スタディ


    • ①ロイヤルパークホテルズアンドリゾーツの中村氏からは、ホテル内中華料理「桂花苑」での生産性向上の取り組みについて紹介していただいた。欧米と比較し日本のホテルは生産効率が低いと捉え、生産性の向上を目的とした活動を紹介していただいた。改善活動の基本である整理整頓を徹底し、各部門での課題について現場改善を進めてきた事例を書いている。動線分析やレイアウト改善、作業量・必要人数の山崩しなどを活用した改善内容も紹介されている。インタビュー(坂爪裕)では、中村氏の明確な経営視点から、改善活動を手段として進められた経緯を語っていただいた。サービスを深める手間隙をかける時間は、効率化から生み出すという言葉が印象に残っている。
    • ②ネットオフの野村氏からは、インターネットと宅配便を使った中古本の買取りと販売を行う事例を紹介いただいた。インターネットを活用したビジネスモデルの裏側では、膨大な物流量を多くの従業員が扱うという環境のなか、ビジネスを成立させるためローコストが求められている。それを目的として、「トヨタ生産方式」を全面的に導入した経緯が紹介されている。ジャスト・イン・タイムの実現に向けて、工程の「整流化」「同期化」に取り組み、タクトタイムを設定し、それを基準として人員配置をするなど、基本に忠実にしっかりとした改善の事例が紹介されている。インタビュー(稲田周平)からは、野村氏がトヨタ生産方式の原理原則を徹底し、展開してきた強い信念が感じられる。同氏のインタビューからは、サービス業、製造業との違いを論じるのが恥ずかしくなるほど、業種を越えた原理・原則があることに気づかされる。
    • ③飯塚病院の福村氏、田原氏、立石氏からは、医療機関における全社改善活動が紹介されている。改善活動の目的を「医療の質の向上」と位置づけ、継続的に全社活動を続けている。当病院は'92年よりTQM活動を導入し、活動発表大会の開催など積極的な活動を続けてきた。'08年にはTPSを取り入れ、医療活動に「Just in time」や「自働化」の考えを取り入れて活動をしてきた。記事のなかには2つの実際の事例が紹介されているが、計数的に分析・評価されており、改善ストーリーについてもまとまったものになっている。インタビュー(加山一郎)からは、長年継続している活動の経緯、取り組みの工夫とともに、患者さんのための時間に付加価値を見出していくという考え方がしっかりと伝わってくる。日本の医療業界の強みとそれを活かすための改善活動についても語られている。
    • ④NECフィールディングは、ITライフサイクルマネジメントをベースとしたサポート&サービスを提供する会社である。同社の武村氏、及川氏、小林氏からは、IT機器の保守サービス事業の事例として、保守サービス事業に生産改革活動手法を活かすことでCS向上と効率化の両立を目的に取り組んだ事例を紹介する。プロセス改善によりお客様にいかに早く・安く・正確に保守部品を供給できるかをCS向上の重要ファクターと捉えて活動した事例である。小集団活動をベースにプロジェクトを発足し、活動を3つのフェーズに分け、全社一丸の改革活動を進め「CS向上」と「効率化」を両立した経緯が書かれている。インタビュー(市来竒治)では、活動の開始からの経緯を、その成功体験に基づいて語っていただいた。トップの戦略を実現するため、改善活動により現状の姿を変えていった苦労話、また人を育てながら進めた活動について内容を紹介いただいた。
    • ⑤柿本榮三美容室の柿本氏からは、美容室での改善活動が紹介されている。日本における美容室の軒数は現在220,000軒である。それだけ競争が厳しいわけであるが、数多い美容室のなかからお客様に認知してもらうことが最大の重要事項であり、その目的を達成するために、どのような工夫をするかが生命線となる。美容業界の実情・課題を交え活動内容を紹介していただいた。インタビュー(稲田周平)では、お客様の満足を得るためスペシャリスト制度を導入し、専門家がやって初めてお客様の満足を得るという厳しい事業環境のなかでの活動の考え方について語っていただいた。サービスと時間の価値という視点についても、サービス業の求められる「価値」の厳しさが伺える。

おわりに


今回の特集から、時代とともにIEのアプローチは拡がりを見せ、サービス業でもその効果が発揮されていると確信できる。今回の特集から感じ取れることは、製造業に比べサービス業の取り組みの方が「付加価値」に着目した時、より強く「お客様」視点になる点で、製造業でも学ぶべき点が大きいということである。製造業、サービス業云々ではなく、知恵と努力と一体感によって活動を行い、組織的活力を生んでいる企業は「元気な会社」として光を放っている。全社活動により自分たちで職場を作り上げていくという達成感が醸成されるのは、産業を越えて改善活動の本質であると感じられる。国内の産業で7割を占め、さらに拡大していく第3次産業にIEが展開されることは、IErにとってうれしいことである。この特集からいろいろな分野の方々にも事例を参考にしていただき、IEを今一度見直していただく特集になれば幸いである。
加山 一郎/企画担当編集委員

【ケース・スタディ】中国料理「桂花苑」における改善活動(レストラン)


ロイヤルパークホテルズアンドリゾーツの中村氏からは、ホテル内中華料理「桂花苑」での生産性向上の取り組みについて紹介していただいた。欧米と比較し日本のホテルは生産効率が低いと捉え、生産性の向上を目的とした活動を紹介していただいた。改善活動の基本である整理整頓を徹底し、各部門での課題について現場改善を進めてきた事例を書いている。動線分析やレイアウト改善、作業量・必要人数の山崩しなどを活用した改善内容も紹介されている。インタビュー(坂爪裕)では、中村氏の明確な経営視点から、改善活動を手段として進められた経緯を語っていただいた。サービスを深める手間隙をかける時間は、効率化から生み出すという言葉が印象に残っている。

【ケース・スタディ】トヨタ生産方式の導入による業務効率の実現(ネット販売)


ネットオフの野村氏からは、インターネットと宅配便を使った中古本の買取りと販売を行う事例を紹介いただいた。インターネットを活用したビジネスモデルの裏側では、膨大な物流量を多くの従業員が扱うという環境のなか、ビジネスを成立させるためローコストが求められている。それを目的として、「トヨタ生産方式」を全面的に導入した経緯が紹介されている。ジャスト・イン・タイムの実現に向けて、工程の「整流化」「同期化」に取り組み、タクトタイムを設定し、それを基準として人員配置をするなど、基本に忠実にしっかりとした改善の事例が紹介されている。インタビュー(稲田周平)からは、野村氏がトヨタ生産方式の原理原則を徹底し、展開してきた強い信念が感じられる。同氏のインタビューからは、サービス業、製造業との違いを論じるのが恥ずかしくなるほど、業種を越えた原理・原則があることに気づかされる。

【ケース・スタディ】TQM活動とKaizenワークショップ(病院)


飯塚病院の福村氏、田原氏、立石氏からは、医療機関における全社改善活動が紹介されている。改善活動の目的を「医療の質の向上」と位置づけ、継続的に全社活動を続けている。当病院は’92年よりTQM活動を導入し、活動発表大会の開催など積極的な活動を続けてきた。’08年にはTPSを取り入れ、医療活動に「Just in time」や「自働化」の考えを取り入れて活動をしてきた。記事のなかには2つの実際の事例が紹介されているが、計数的に分析・評価されており、改善ストーリーについてもまとまったものになっている。インタビュー(加山一郎)からは、長年継続している活動の経緯、取り組みの工夫とともに、患者さんのための時間に付加価値を見出していくという考え方がしっかりと伝わってくる。日本の医療業界の強みとそれを活かすための改善活動についても語られている。

【ケース・スタディ】CS向上と効率化の両立に向けて(保守サービス)


NECフィールディングは、ITライフサイクルマネジメントをベースとしたサポート&サービスを提供する会社である。同社の武村氏、及川氏、小林氏からは、IT機器の保守サービス事業の事例として、保守サービス事業に生産改革活動手法を活かすことでCS向上と効率化の両立を目的に取り組んだ事例を紹介する。プロセス改善によりお客様にいかに早く・安く・正確に保守部品を供給できるかをCS向上の重要ファクターと捉えて活動した事例である。小集団活動をベースにプロジェクトを発足し、活動を3つのフェーズに分け、全社一丸の改革活動を進め「CS向上」と「効率化」を両立した経緯が書かれている。インタビュー(市来竒治)では、活動の開始からの経緯を、その成功体験に基づいて語っていただいた。トップの戦略を実現するため、改善活動により現状の姿を変えていった苦労話、また人を育てながら進めた活動について内容を紹介いただいた。

【ケース・スタディ】日本一のブランドサロンをめざした改善活動(美容室)


柿本榮三美容室の柿本氏からは、美容室での改善活動が紹介されている。日本における美容室の軒数は現在220,000軒である。それだけ競争が厳しいわけであるが、数多い美容室のなかからお客様に認知してもらうことが最大の重要事項であり、その目的を達成するために、どのような工夫をするかが生命線となる。美容業界の実情・課題を交え活動内容を紹介していただいた。インタビュー(稲田周平)では、お客様の満足を得るためスペシャリスト制度を導入し、専門家がやって初めてお客様の満足を得るという厳しい事業環境のなかでの活動の考え方について語っていただいた。サービスと時間の価値という視点についても、サービス業の求められる「価値」の厳しさが伺える。