IEとITの融合を考える
2014年3月 / 284号 / 発行:2014年3月1日
目次
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巻頭言
ITの進化とIEの深化
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特集テーマのねらい(特集記事)
IEとITの融合を考える
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論壇(特集記事)
経営のグローバル化とIT活用による現場力向上
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ケース・スタディ(特集記事)
ITを活用した生産性向上とリードタイム短縮
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ケース・スタディ(特集記事)
IT活用による超多品種少量生産におけるリードタイム短縮の取り組み
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ケース・スタディ(特集記事)
技術・技能伝承活動と映像を利用したマニュアル・人材育成
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ケース・スタディ(特集記事)
エネルギーの「見える化」からITを活用した「見せる化」への挑戦
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ケース・スタディ(特集記事)
業務プロセス/ITの類型化によるグローバルSCM改革
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プリズム(特集記事)
スマートデバイスによる情報の「見たい化」
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プリズム(特集記事)
ゲーム端末を用いた作業時間の収集・活用システム
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連載講座
「からくり技術」による現場のモノづくり強化[Ⅴ]
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会社探訪
「社会に役立つ人づくり」を基本としたモノづくり-(株)タナカテック-
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現場改善
古紙利用と王子グループの対応
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ビットバレーサロン
トヨタのDNAに迫る
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コラム(79)
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協会ニュース
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私のすすめる本
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連携団体法人会員会社一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
政権が交代し、1年が経過した。その間、アベノミクスと称した大胆な金融政策の実施、2020年東京五輪の開催決定など、わが国経済は緩やかではあるが回復の兆しが見えてきた。1ドル70円といった円高も一部是正されるなど、六重苦といわれた状況も改善され、国内モノづくり企業の競争力を高めることに貢献している。言い換えれば、「環境は整いつつある」といえる。これらの環境が後押しするかのごとく、各社における改善活動も改めて注目されている。改善活動を推進する人材の育成に注力する企業も見受けられるなど、国内でのモノづくりも、一時の閉塞感を打ち破る様子が見えているようである。しかしながら、従来の方法を単に復活させて取り組むだけでは、成長著しい近隣のアジア諸国に対応していくことは困難である。これまでの活動を、さらに柔軟かつ迅速に対応可能な状況に高めることを考える際に、情報技術(IT)をIEにも有効活用するのみならず、IEとITを融合することが望まれる。現実にITを活用した同期生産の実現、品質保証を目的としたトレーサビリティシステム、さらには現場データを活用した改善活動の加速化など、様々な取り組みが企業内で行われている。そこで本特集では、「IEとITの融合を考える」をテーマとして、各社におけるモノづくり活動を伸ばすIEの諸活動におけるITの活用事例、特に利用に際しての情報のあり方、使い方のポイントをご紹介いただき、それらをまとめて特集としたい。具体的には、以下のような記事をまとめてみたいと考えている。
- ITによる工場内データの収集と分析による生産リードタイムならびに人員数などの削減
- グローバル環境下における需要予測とそれら情報の生産計画への活用の仕組み
- 3D-CADデータの有効活用における開発・生産・営業支援
- データの見える化による、エネルギー使用量の低減、品質向上、そして工場総費用低減などの活動
- 熟練技能の抽出と映像を活用した動画マニュアル、人材育成への活用
記事構成
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論壇
武蔵大学の松島桂樹先生に、「経営のグローバル化とIT活用による現場力向上」と題して執筆いただいた。日本の強みである現場力を、現場改善能力とそれを支えるヒトづくりの課題について、グローバル化、そしてIT化の流れの背景から分かりやすく説明いただいている。現場力の基本こそ改善の能力であり、それを保有するヒトづくりこそ今求められている。一見当たり前のことであるが、そのことについて中小企業の事例も交えて、具体的に言及されている。日本のモノづくり戦略の要諦でもあるヒトづくり、「現場力は日本で維持成長させる」について再認識させられる内容となっている。 -
ケース・スタディ
- ①神崎高級工機製作所の池田真里氏、石丸吉隆氏に、「ITを活用した生産性向上とリードタイム短縮」と題して執筆いただいた。同社は、トヨタ生産方式をベースとしたYWK活動(YANMAR Way by Kaizen)による製造体質強化活動に以前より継続的に取り組んできた。しかしながら、生産準備、業務管理、生産現場のそれぞれの状態を確認したところ、①生産準備業務の手法変更、②業務プロセスの仕組み作り、③生産現場でのIT活用による業務の標準化・効率化という3つの課題が抽出された。そこで、工数を削減し、量産立ち上げまでに量産準備を完了させるという「めざす姿」を設定し活動に取り組んだ内容が紹介されている。
- ②オムロンの植村礼光氏に、「IT活用による超多品種少量生産におけるリードタイム短縮の取り組み」と題して執筆いただいた。草津工場では、4,000品目以上の製品、かつその約70%の品目が月産20台以下という超多品種少量の生産を行っている。そのため、PCB表面実装工程では段取り替えの時間が1日に約250回となり、直接作業に対する管理・付帯作業の割合が増加している。このような状況下において、自社開発されたPRIME(Provide Real-time Information for Manufacturing Execution)を活用した製造リードタイム短縮の改善事例が紹介されている。
- ③積水化学工業の北廣和雄氏に、「技術・技能伝承活動と映像を利用したマニュアル・人材育成」と題して執筆いただいた。映像を利用したマニュアルは、近年多くの企業でも採用されているが、同社では工業生産における技術・技能を明確に定義し、それらの技術・技能伝承の人材育成に映像マニュアルを利用している。本記事では、特に同社の取り組むマイスター制度について詳しく紹介されている。また、映像を利用したマニュアルの作成方法と効果についても触れられている。
- ④大和ハウス工業の黒山洋秀氏に、「エネルギーの『見える化』からITを活用した『見せる化』への挑戦」と題して執筆いただいた。「環境中長期ビジョン2020」を策定し、グループ全体でのCO2排出量の削減に取り組んでいる。活動は、現場力(経験)による省エネ、見える化、そして省エネ改善プロジェクトへ進み、'13年度からは情報の「見せる化」へと取り組みが進められている。一連の活動のなかで、同社独自の工場エネルギーマネジメントシステムであるD’s FEMSを開発、リアルタイムに必要な情報を「見せる化」し、様々な「気づき」を与える仕組みについても紹介されている。
- ⑤NECの作澄子氏に、「業務プロセス/ITの類型化によるグローバルSCM改革」と題して執筆いただいた。同社では、1993年から生産革新、2000年よりデリバリ改革、そして2008年より経営システム改革へと取り組んできた。そのなかで、これまで踏み込み切れていなかった生産管理領域の変革とグローバル売上拡大の基盤づくりを目的としたグローバルSCM改革へと取り組みを進めている。その取り組みでは、製品の特性に応じて、製品の生産にかかわる活動を4つの類型に分類し、取り組み内容について具体的に紹介されている。
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プリズム
- ①東洋ビジネスエンジニアリングの深澤俊男氏、本澤知将氏に、「スマートデバイスによる情報の『見たい化』」と題して執筆をいただいた。今日、スマートフォンといったスマートデバイスが広く普及しているが、製造現場での活用も大きな関心事である。本記事では、従来、帳票やノートに記載されていた製造実績などの情報をスマートデバイス上で管理することにより、作業者の「見たい」という欲求を満たすことを目標として開発した「RAKU-Pad」(iPhone、iPad上のソフトウェア)について紹介されている。
- ②山形県立産業技術短期大学校の山口俊憲先生に、「ゲーム端末を用いた作業時間の収集・活用システム」と題して執筆いただいた。スマートデバイスより、さらに親しみやすい端末としてポータブルゲーム機がある。本記事では、このような遊び心ある端末を活用した時間測定の仕組みと、そこでの情報を活用した生産システム、組織の構築、そして人材育成の取り組みなど、実際に取り組んだTSIソーイング福島工場での事例を通じて紹介している。
まとめ
今回の特集を通じて、様々なモノづくりの現場において、すでにIT活用への取り組みは進み、ITがIE活動を促進している実態を確認することができた。従来、間接業務にて積極的に展開されてきたIEとITの融合は、今やモノづくり現場へ拡大し、かつ具体的な成果へと結実しつつある。IEの基本的な考え方が企業の根幹ともいえる部分であるとするならば、ITはその根幹の能力をさらに高めるものである。折しも冬季五輪開催の時期であるが、素晴らしい肉体とそれを活かすスキー板、スパイク、そしてウェアなどの様々な道具、これらが融合してこそ大きな成果を収めることができる。IEとITの融合も同様と思われる。より効果的なITの活用は融合を意識してこそ活かされるが、IT自体は決して魔法の杖ではないことを認識することも重要であろう。また、改めて企業の根幹の部分についても、考え直すことにより、さらなる大きな成果へと進化していくことを期待したい。
皆川 健多郎/企画担当編集委員
【論壇】経営のグローバル化とIT活用による現場力向上
武蔵大学の松島桂樹先生に、「経営のグローバル化とIT活用による現場力向上」と題して執筆いただいた。日本の強みである現場力を、現場改善能力とそれを支えるヒトづくりの課題について、グローバル化、そしてIT化の流れの背景から分かりやすく説明いただいている。現場力の基本こそ改善の能力であり、それを保有するヒトづくりこそ今求められている。一見当たり前のことであるが、そのことについて中小企業の事例も交えて、具体的に言及されている。日本のモノづくり戦略の要諦でもあるヒトづくり、「現場力は日本で維持成長させる」について再認識させられる内容となっている。
【ケース・スタディ】ITを活用した生産性向上とリードタイム短縮
神崎高級工機製作所の池田真里氏、石丸吉隆氏に、「ITを活用した生産性向上とリードタイム短縮」と題して執筆いただいた。同社は、トヨタ生産方式をベースとしたYWK活動(YANMAR Way by Kaizen)による製造体質強化活動に以前より継続的に取り組んできた。しかしながら、生産準備、業務管理、生産現場のそれぞれの状態を確認したところ、①生産準備業務の手法変更、②業務プロセスの仕組み作り、③生産現場でのIT活用による業務の標準化・効率化という3つの課題が抽出された。そこで、工数を削減し、量産立ち上げまでに量産準備を完了させるという「めざす姿」を設定し活動に取り組んだ内容が紹介されている。
【ケース・スタディ】IT活用による超多品種少量生産におけるリードタイム短縮の取り組み
オムロンの植村礼光氏に、「IT活用による超多品種少量生産におけるリードタイム短縮の取り組み」と題して執筆いただいた。草津工場では、4,000品目以上の製品、かつその約70%の品目が月産20台以下という超多品種少量の生産を行っている。そのため、PCB表面実装工程では段取り替えの時間が1日に約250回となり、直接作業に対する管理・付帯作業の割合が増加している。このような状況下において、自社開発されたPRIME(Provide Real-time Information for Manufacturing Execution)を活用した製造リードタイム短縮の改善事例が紹介されている。
【ケース・スタディ】技術・技能伝承活動と映像を利用したマニュアル・人材育成
積水化学工業の北廣和雄氏に、「技術・技能伝承活動と映像を利用したマニュアル・人材育成」と題して執筆いただいた。映像を利用したマニュアルは、近年多くの企業でも採用されているが、同社では工業生産における技術・技能を明確に定義し、それらの技術・技能伝承の人材育成に映像マニュアルを利用している。本記事では、特に同社の取り組むマイスター制度について詳しく紹介されている。また、映像を利用したマニュアルの作成方法と効果についても触れられている。
【ケース・スタディ】エネルギーの「見える化」からITを活用した「見せる化」への挑戦
大和ハウス工業の黒山洋秀氏に、「エネルギーの『見える化』からITを活用した『見せる化』への挑戦」と題して執筆いただいた。「環境中長期ビジョン2020」を策定し、グループ全体でのCO2排出量の削減に取り組んでいる。活動は、現場力(経験)による省エネ、見える化、そして省エネ改善プロジェクトへ進み、’13年度からは情報の「見せる化」へと取り組みが進められている。一連の活動のなかで、同社独自の工場エネルギーマネジメントシステムであるD’s FEMSを開発、リアルタイムに必要な情報を「見せる化」し、様々な「気づき」を与える仕組みについても紹介されている。
【ケース・スタディ】業務プロセス/ITの類型化によるグローバルSCM改革
NECの作澄子氏に、「業務プロセス/ITの類型化によるグローバルSCM改革」と題して執筆いただいた。同社では、1993年から生産革新、2000年よりデリバリ改革、そして2008年より経営システム改革へと取り組んできた。そのなかで、これまで踏み込み切れていなかった生産管理領域の変革とグローバル売上拡大の基盤づくりを目的としたグローバルSCM改革へと取り組みを進めている。その取り組みでは、製品の特性に応じて、製品の生産にかかわる活動を4つの類型に分類し、取り組み内容について具体的に紹介されている。
【プリズム】スマートデバイスによる情報の「見たい化」
東洋ビジネスエンジニアリングの深澤俊男氏、本澤知将氏に、「スマートデバイスによる情報の『見たい化』」と題して執筆をいただいた。今日、スマートフォンといったスマートデバイスが広く普及しているが、製造現場での活用も大きな関心事である。本記事では、従来、帳票やノートに記載されていた製造実績などの情報をスマートデバイス上で管理することにより、作業者の「見たい」という欲求を満たすことを目標として開発した「RAKU-Pad」(iPhone、iPad上のソフトウェア)について紹介されている。
【プリズム】ゲーム端末を用いた作業時間の収集・活用システム
山形県立産業技術短期大学校の山口俊憲先生に、「ゲーム端末を用いた作業時間の収集・活用システム」と題して執筆いただいた。スマートデバイスより、さらに親しみやすい端末としてポータブルゲーム機がある。本記事では、このような遊び心ある端末を活用した時間測定の仕組みと、そこでの情報を活用した生産システム、組織の構築、そして人材育成の取り組みなど、実際に取り組んだTSIソーイング福島工場での事例を通じて紹介している。