改善活動における余裕のマネジメント


2020年5月 315号発行:2020年5月1日
  • 巻頭言


    日本E協会の現在位置と今後の方向性
    綱川智/日本IE協会会長・(株)東芝
  • 特集テーマのねらい(特集記事)


    改善活動における余裕のマネジメント
    坂爪裕/企画担当編集委員
  • 論壇(特集記事)


    継続的改善の意義を再考する
    河野宏和/慶應義塾大学
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    改善活動を通じた独⾃の⼈財育成
    竹内亮太/(株)九州タブチ
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    あそび⼼でモチベーションアップ、社員が創る100年企業
    湯澤秀樹/オグラ金属(株)
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    余裕のマネジメント
    藤原加奈 山口淳/(株)フジワラテクノアート
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    全体最適を考えたものづくり改善
    山田昌也/(株)セキソー
    概要
  • 連載「モノづくり現場でキラリと輝く⼥性たち」第1回


    全体最適を⾒るIEは⼥性の強みを活かせる業務
    西村美佳/日産自動車(株)  取材 斎藤文/産業能率大学 江頭紀子
  • レポート 第4回 産学連携研究交流会(分科会2)


    「IE視点に⽴った業務の仕組みづくりと改善」
    開催レポート 西岡久充/龍谷大学
  • コラム(110)

  • 協会ニュース

  • 連携団体法人会員一覧

  • 編集後記

特集テーマのねらい


提供される製品やサービスのQCDを向上させていくためには、継続的な改善活動を進めていくことが大切です。そのために、付加価値とムダを区分し、徹底的なムダ取り活動が展開されています。しかしその一方で、あえてムダを残すといいますか、余裕を残すことが必要な領域があるのではないでしょうか。メリハリの効いたムダ取りを長期的に続けていくために、組織としてどのような余裕が必要になるのでしょうか。
最近の改善活動を見ていると、とかく短期的な成果のみを追い求めるケースが散見されます。そのため、すぐに効果が出そうな手法・技法の適用ばかりに目がいったり、数字で客観的に効果を把握できる領域だけを改善する風潮が蔓延しているような気がします。しかし、改善内容によっては、試行錯誤をともなうゆえに短期的に効果が顕在化しにくい分野や、改善活動を通じて間接的に人材が育成され企業体質が強化されるケースなど、一定の余裕を持って長期的な観点から活動に取り組むことで初めて効果に結びつく領域もあります。
本特集では、このような背景から、改善活動の余裕に着目した上で、メリハリの効いたムダ取りを長期継続的に実施し企業競争力を強化していくためには、あえてどのような部分に余裕を残しておくべきなのか、またその余裕をどのような形で次なる活動の推進力に変えていけば良いのかといった改善活動における余裕のマネジメントについて検討しました。
改善活動における余裕を考えるに当たっては、時間的(工数的)余裕や空間的(スペース)余裕、また資金的余裕などが考えられます。例えば、改善した成果をすぐにコスト削減に結びつけようとして人員を削減すると、改善を実施した職場では、せっかく改善をしても効果を享受できないばかりか、改善前よりもかえって忙しくなったという結果になりかねません。このような場合には、次なる改善の原資として、あえて一定期間、改善で創出された工数余裕を現場から取り上げないというマネジメントも必要になります。また、レイアウト変更や動線改善を実際に行なうためには、製造現場で試行してみることも有効ですが、スペースに余裕があれば試行錯誤が可能になります。
さらに、新たな治工具を試作したり、設備の一部を改造するような実験を行なう場合には、資金的余裕も必要になります。これらの時間的・空間的・資金的余裕を上手くマネジメントできれば、改善活動を無理なく継続することが可能になり、短期的・直接的な効果だけでなく、様々な試行錯誤を通じた生産技術の蓄積や人材育成などが可能となり、結果として企業競争力の強化に結びつけることができます。

テーマの骨子


改善活動における余裕のマネジメントと一口にいっても、企業規模や事業内容、管理者によってマネジメントの発想・方法が異なることが考えられます。そのため、特集記事を執筆いただく際には、最低限以下の3点については、各記事とも共通して執筆いただくようお願いをしました。
  • ①まず、改善活動として、日々具体的にどのような活動を展開されているか、どのような推進体制で取り組んでいるかなど、改善活動の概要についてまとめていただきました。
  • ②次に、徹底的なムダ取りを行なった一方で、意図的に余裕を残しておくことに留意した改善事例を1つ取り上げて、その内容を詳しく記述していただきました。
  • ③その上で、改善活動を推進するマネジメントとして、メリハリの効いた改善活動を展開するためには、徹底的なムダ取りを行なう一方で、あえてどのような部分に余裕を残しておくべきなのか、またその余裕をどのような形で次なる活動の推進力に変えていけば良いのかといった改善活動における余裕のマネジメントについて持論を展開していただきました。その際、改善活動に対して一定の余裕を残すと考える背後には、一体どのような方針や理念・考え方がベースにあるのか、改善活動の推進責任者としてどのような想いをお持ちなのか、その具体的な内容について、ご執筆いただきました。
各ケースとも、マネジメントの方々の生の声を収録することができたと考えております。

記事構成


  • 論壇


    慶應義塾大学の河野宏和氏に「継続的改善の意義を再考する」と題して執筆いただきました。企業が長期継続的に改善活動を行なう目的は企業体質の強化にあり、これを実現するためには「ありたい姿」を考え続ける余裕が必要になるとのことです。
  • ケース・スタディ


    • ①九州タブチの竹内亮太氏には、改善活動を通じた同社独自の人財育成について紹介いただきました。「人の成長なくして会社の成長なし」、「従業員の皆さんの子どもたちが働きたいと思える魅力的な会社の実現」という基本理念のもと、自主研と呼ばれる同社の改善活動では、様々な失敗を経験させ、人の成長をじっくり待つという意味での余裕が考慮されているとのことです。
    • ②オグラ金属の湯澤秀樹氏には、同社が展開する足利流5Sテーマパーク活動を中心とした改善活動における“あそび”のマネジメントについて紹介いただきました。従業員のモチベーションを維持しつつ改善活動を活性化させ、活動を長期継続的に実施していくためには、時間的余裕・資金的余裕に加えて、心の余裕とでも呼ぶべき“遊び心・改善の楽しみ”といった要素が必要になるとのことです。
    • ③フジワラテクノアートの藤原加奈氏・山口淳氏には、回り道を是とする価値観に基づいた余裕のマネジメントについて紹介いただきました。同社が定義する余裕とは、「その組織が、社会に貢献できる新たな価値を創りだす力をどれだけ内在しているか」であり、未来に向けて新たな価値を創り出すためには、様々な試行錯誤・回り道がむしろ重要であり、この過程で得たものが、その後の経営を支える糧になるとのことです。
    • ④セキソーの山田昌也氏には、同社の構内物流オペレーションを中心とした全体最適を考えたものづくり改善について紹介いただきました。同社では、当初、改善を短期的に対症療法で行なっていたが、じっくり腰を落ち着けて現場の納得感と自己決定感を醸成し、現場がオーナーシップを持てるように配慮・サポートする余裕を確保することで、改善活動を継続していくことができたとのことです。

おわりに


以上、論壇と4つのケース・スタディ記事を見ると、改善活動における余裕のマネジメントとして、いくつかの共通項が存在するのではないかとの感想を持ちました。第1に、様々な余裕を確保した上で改善活動を実践するためには、当たり前ですが、“経営トップの理念や考え方”が極めて重要であるという点です。余裕を確保するためには、多くの場合、短期的な利益には反する意思決定が必要になりますから、経営トップの理念や考え方がベースになければ実践できません。第2に、同時にこのような理念や考え方をいかに愚直にしつこく、徹底して従業員に説いていくかという“コミュニケーション”が極めて重要であるという点です。余裕は理念としては誰しも賛成ですが、日々の経営における実行局面となると「そんな余裕は当社にはない」、「そんな甘い考えで良いのか」といった反発が生まれてきて、せっかくの余裕のマネジメントが骨抜きになる可能性が極めて高いのです。そのため、最も重要なことは、徹底してこだわり続けるトップの姿勢です。トップの“背中”こそが重要なのであって、従業員に本気であることを示すことができなければ、骨抜きを回避できません。第3に、結局どの組織においても、余裕のマネジメントを実践する際には、“人という要素に焦点をあてたマネジメント”が重要であるという点です。日々の改善活動においては、人に対する教育やモチベーションの維持・向上が欠かせません。「モノづくりは人づくり」とよく言われる所以がここにあるのではないかと思います。
企画担当者としては、以上3点の感想を持ちましたが、読者はどのような感想を持たれるでしょうか。本企画の内容が少しでも読者の参考になれば幸いです。
企画担当編集委員/慶應義塾大学・坂爪 裕

【論壇】継続的改善の意義を再考する


慶應義塾大学の河野宏和氏に「継続的改善の意義を再考する」と題して執筆いただきました。企業が長期継続的に改善活動を行なう目的は企業体質の強化にあり、これを実現するためには「ありたい姿」を考え続ける余裕が必要になるとのことです。

【ケース・スタディ】改善活動を通じた独⾃の⼈財育成


九州タブチの竹内亮太氏には、改善活動を通じた同社独自の人財育成について紹介いただきました。「人の成長なくして会社の成長なし」、「従業員の皆さんの子どもたちが働きたいと思える魅力的な会社の実現」という基本理念のもと、自主研と呼ばれる同社の改善活動では、様々な失敗を経験させ、人の成長をじっくり待つという意味での余裕が考慮されているとのことです。

【ケース・スタディ】あそび⼼でモチベーションアップ、社員が創る100年企業


オグラ金属の湯澤秀樹氏には、同社が展開する足利流5Sテーマパーク活動を中心とした改善活動における“あそび”のマネジメントについて紹介いただきました。従業員のモチベーションを維持しつつ改善活動を活性化させ、活動を長期継続的に実施していくためには、時間的余裕・資金的余裕に加えて、心の余裕とでも呼ぶべき“遊び心・改善の楽しみ”といった要素が必要になるとのことです。

【ケース・スタディ】余裕のマネジメント


フジワラテクノアートの藤原加奈氏・山口淳氏には、回り道を是とする価値観に基づいた余裕のマネジメントについて紹介いただきました。同社が定義する余裕とは、「その組織が、社会に貢献できる新たな価値を創りだす力をどれだけ内在しているか」であり、未来に向けて新たな価値を創り出すためには、様々な試行錯誤・回り道がむしろ重要であり、この過程で得たものが、その後の経営を支える糧になるとのことです。

【ケース・スタディ】全体最適を考えたものづくり改善


セキソーの山田昌也氏には、同社の構内物流オペレーションを中心とした全体最適を考えたものづくり改善について紹介いただきました。同社では、当初、改善を短期的に対症療法で行なっていたが、じっくり腰を落ち着けて現場の納得感と自己決定感を醸成し、現場がオーナーシップを持てるように配慮・サポートする余裕を確保することで、改善活動を継続していくことができたとのことです。