混沌とした時代におけるIEの人財教育


2020年12月 318号発行:2020年12月1日
  • 巻頭言


    コロナ時代の人材育成とモノづくり改革について
    西村司/中部IE協会副会長・大同特殊鋼㈱
  • 特集テーマのねらい(特集記事)


    混沌とした時代におけるIEの人財教育
    加藤里美/企画担当編集委員
  • 論壇(特集記事)


    次世代IE技術の発展と人材育成
    荒川雅裕/名古屋工業大学
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    環境変化に強い技能伝承への取り組み
    高井昌樹 加賀則至/豊田合成㈱
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    多様化する製造現場の教育訓練への取り組み
    久保山儀一/ヤマハ発動機㈱
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    技術者基礎としての管理技術教育
    石井和克/金沢工業大学
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    今始まる日本一フレキシブルな「実学教育」
    鈴木直樹 西村亮/愛知県立愛知総合工科高等学校
    概要
  • プリズム(特集記事)


    「数値化できない技術」を継承できる人財をいかに育てるか
    三井弘司/㈱柘製作所 レポーター 江頭紀子
    概要
  • 会社探訪


    現場の管理監督者を育てる人づくりの取り組み-ジェイテクト高等学園-
    レポーター 安田正義/愛知工業大学
  • 連載「モノづくり現場でキラリと輝く女性たち」第4回


    チームワークで進めるのがIEのおもしろさ
    自分で壁をつくらず、新しい世界をつくる気持ちで挑戦を
    野田美紗希/㈱ブリヂストン  取材 斎藤文/産業能率大学 江頭紀子
  • レポート


    第49回「日本IE文献賞」受賞文献のご報告
    IEレビュー編集委員会
  • コラム(113)

  • 協会ニュース

  • 連携団体法人会員一覧

  • 編集後記

特集テーマのねらい


我々の前には混沌とした世界が広がっている。2020年初頭から世界的な広がりを見せたコロナ危機により、人々の生活が大きく様変わりした。集団を作って密となることがよくないとされ、多くの仕事は在宅勤務を求められている。学校教育も、対面授業からオンライン授業(あるいは両者の併用型)へと変わりつつある。このような時代において、企業や教育機関のIE教育はどのように対応し、変化していくべきなのだろうか。
「新しい時代なのだから、IT化を進めていけばオンラインで仕事をできるのではないか」という意見も出てくるだろう。それには、現場に行かなくても学べる知恵や工夫まで踏み込んでIT化を考えていかなければならず、何らかのアイディアを示していく必要があるだろう。それに対して、当然「できない」という意見がある。そこでは、オンラインではできないことを掘り下げて、その要素が何なのかを明らかにしていくことが重要となる。そうした中、「オンラインでできるかできないかという手段の議論ではない」と、言葉遊びの無為に気づかせてくれるのもコロナ時代なのかもしれない。今この時代だからこそ、原点に立ち戻ってIEの人財教育を考える必要がある。大学におけるIE教育に関する講座が減少していると言われて久しい。モノづくりの現場においても、IE教育の場が減っていると言われており、それが技術・技能伝承の危機に大きく影響している。技術・技能を伝承していくにはどのような知恵や工夫をこらした教育が必要なのだろうか。
本特集では、混沌とした時代におけるIEの人財教育という観点で、大学や高校の教育現場、企業のモノづくり現場からIE教育に関する知恵や工夫の事例を集め、IE教育の必要性や理解度を深めてもらうことをねらいとする。高校や大学ではどのような特徴あるカリキュラムや教育を行なっているのか。それらは実際に企業での仕事にどのように活かされているのか。企業で行なわれているIE教育に関して、オンラインでは伝わりにくい知恵や工夫を示し、それらを抜きにしてIT化を議論しても教育内容が深まらないことを示していければと考えている。本稿で人材に「人財」を用いるのは、今後企業にとって重要な人材となってくれるという期待を込めている。

記事構成


  • 論壇


    名古屋工業大学大学院の荒川雅裕先生に「次世代IE技術の発展と人材育成~中部地区における人材育成からみた問題と対策~」と題して執筆いただいた。
    本稿では、先生が担当されている社会人向けの人材育成プログラム(工場長養成塾、IoTシステムインテグレーター人材育成講座、産業用ロボット導入支援研修会、ものづくりブリッジ人材育成講座)を紹介いただき、そこでのIE技術との関係やIE技術の利用例を説明いただいた。IoT技術の発展や技能伝承の問題からIEの必要性が高まっているが、IE技術をどのように利用するか、発展させるかが製造業にとって重要な課題であり、今後の方向性としてIE技術者が生産技術や製品設計など技術の融合を学んでいくことの必要性が説明されている。IE技術者への貴重な提言である。
  • ケース・スタディ


    • ①豊田合成の高井昌樹氏、加賀則至氏に「環境変化に強い技能伝承への取り組み」と題して執筆いただいた。
      自動車業界における自働化の促進、AI化には、製造技術における基本的な技能伝承が重要である。一方で標準化の環境が進み、技能伝承への意識が低くなってきた現状を鑑み、「TG(豊田合成)人材育成センター」を立ち上げ、専門技能伝承、金型技能伝承、保全技能伝承に関して、実践重視の教育訓練を進めている。「専門技能伝承道場」では次世代への専門技能継承の場としての活用が進んでいる。「金型技能伝承道場」では海外拠点の人材も受け入れ、技能重視の風土づくりが進んでいる。「保全技能伝承道場」では電気系の教育を強化し、ロボット化、IT化に対応できる内容を充実させている。これらの活動の結果、上司や研修生からは手応えの声が上がっている。
    • ②ヤマハ発動機の久保山儀一氏に「多様化する製造現場の教育訓練への取り組み」と題して執筆いただいた。
      多品種少量生産のモデル群を毎年の負荷変動に対応しながら生産する工場にとっては、新しい人、新しい製品をいかに短期間の訓練で目標レベルに導くかが課題である。同社の教育は組立原則に則った基本的内容で、導入教育では座学の内容を実技訓練で体験体感させ、配属後も理解度確認テストによりフォローアップを続けている。新機種には新機種訓練道場を実施し、動画による復習も行なっている。少量モデル生産現場では、ベテラン作業者の動画に作業時間を入れる工夫を行なっている。外国人に分かりやすいことは日本人にも分かりやすいと考え、古きよきものを残しつつ最新技術を取り入れる教育訓練に取り組んでいる。
    • ③金沢工業大学の石井和克先生に「技術者基礎としての管理技術教育~キャリアデザインと管理技術の融合をめざして~」と題して執筆いただいた。
      本稿では、先生が開発されている管理技術教育プログラムと実施結果における履修者の態度変容についての検討事例を説明いただいた。本プログラムは、管理技術を標準化と改善のための技術と位置づけ、管理の輪と学習プロセスモデルを組み合わせ、キャリアデザインと融合したものであり、個人学習と協同学習を組み合わせて運用している。コロナ禍のリモート学習においては、協同学習では見えなかった個々の学習者の深い理解への変化が、個人別課題の指導を通じて見えてきたという発見があった。その一方で、協同学習における学習者の暗黙知と共感性の共有に対するデジタル技術の限界の検証に取り組む必要性が明らかとなった。
    • ④愛知県立愛知総合工科高等学校専攻科の鈴木直樹氏、西村亮氏に「今始まる日本一フレキシブルな『実学教育』~全国初の公設民営学校による『高度ものづくり人材』の育成~」と題して執筆いただいた。
      本専攻科は愛知県が国家戦略特区制度の認定を受け、全国初の公設民営学校として開設された。学科・コース編成は、愛知県の自動車などの産業を活かした構成で、高度な知識と技術・技能を有する生産現場のリーダーの育成をめざしている。授業カリキュラムは座学6(大学レベルの教育)、実習4の構成で、特に実習に重点が置かれている。実習は6割を占める実務家教員により展開され、県派遣教員も実務家教員主導のアクティブラーニングを学び、後に発足する工科高等学校の教育現場で新たな教育手法を展開することになっている。コロナ禍のオンライン教育では、世界中の現地現物を目で見て理解を深めるという可能性を見いだすことに成功した。
  • プリズム


    • ①柘製作所の三井弘司氏に取材を行ない「『数値化できない技術』を継承できる人財をいかに育てるか~柘製作所のモノづくり~」と題して記事をまとめた。
      同社のハンドメイドパイプは、職人が材料のセレクトからデザイン考案、製造、仕上げまで、すべて1人で行なっている。それには高度な技術力が必要とされ、師匠について学んでいく。職人世界で言われている「見て覚えろ」ではなく、つくってみて、分からないところは師匠に聞いて、の繰り返しである。同社は職人集団でありながら会社組織でもあり、自分たちの道は楽しく仕事ができる環境づくりと考えている。また新たなチャレンジとして、後継者不在の伝統工芸を引き継ぐ取り組みを始めた。同社には伝統技術を続けていくことが職人の道であるという強い意志が感じられる。

おわりに


本稿からは、トップがモノづくりは人づくりの認識を持ち、全社的な取り組みとしてIEの人財教育を進めていくことが必要であることが分かる。教える側の本質を伝える持続力と忍耐力、学ぶ側の本質を体得するための実践とその繰り返しがポイントであり、信頼感の構築がキーワードとなる。その基礎となるのは、技能重視の風土を社内に行き渡らせることである。暗黙知の伝承もその下地があってこそだろう。オンラインでは、暗黙知と共感性の共有をどう伝えていくのか、またどのように信頼感を構築していくかが課題になるのではないだろうか。コロナ禍では、人の接触、密集を避けるという意味でAI活用が必要となってくる。IE技術とAI技術の融合を図る人財の育成は、今後の大きな課題になるであろう。
企画担当編集委員/愛知工業大学・加藤 里美

【論壇】次世代IE技術の発展と人材育成


名古屋工業大学大学院の荒川雅裕先生に「次世代IE技術の発展と人材育成~中部地区における人材育成からみた問題と対策~」と題して執筆いただいた。
本稿では、先生が担当されている社会人向けの人材育成プログラム(工場長養成塾、IoTシステムインテグレーター人材育成講座、産業用ロボット導入支援研修会、ものづくりブリッジ人材育成講座)を紹介いただき、そこでのIE技術との関係やIE技術の利用例を説明いただいた。IoT技術の発展や技能伝承の問題からIEの必要性が高まっているが、IE技術をどのように利用するか、発展させるかが製造業にとって重要な課題であり、今後の方向性としてIE技術者が生産技術や製品設計など技術の融合を学んでいくことの必要性が説明されている。IE技術者への貴重な提言である。

【ケース・スタディ】環境変化に強い技能伝承への取り組み


豊田合成の高井昌樹氏、加賀則至氏に「環境変化に強い技能伝承への取り組み」と題して執筆いただいた。
自動車業界における自働化の促進、AI化には、製造技術における基本的な技能伝承が重要である。一方で標準化の環境が進み、技能伝承への意識が低くなってきた現状を鑑み、「TG(豊田合成)人材育成センター」を立ち上げ、専門技能伝承、金型技能伝承、保全技能伝承に関して、実践重視の教育訓練を進めている。「専門技能伝承道場」では次世代への専門技能継承の場としての活用が進んでいる。「金型技能伝承道場」では海外拠点の人材も受け入れ、技能重視の風土づくりが進んでいる。「保全技能伝承道場」では電気系の教育を強化し、ロボット化、IT化に対応できる内容を充実させている。これらの活動の結果、上司や研修生からは手応えの声が上がっている。

【ケース・スタディ】多様化する製造現場の教育訓練への取り組み


ヤマハ発動機の久保山儀一氏に「多様化する製造現場の教育訓練への取り組み」と題して執筆いただいた。
多品種少量生産のモデル群を毎年の負荷変動に対応しながら生産する工場にとっては、新しい人、新しい製品をいかに短期間の訓練で目標レベルに導くかが課題である。同社の教育は組立原則に則った基本的内容で、導入教育では座学の内容を実技訓練で体験体感させ、配属後も理解度確認テストによりフォローアップを続けている。新機種には新機種訓練道場を実施し、動画による復習も行なっている。少量モデル生産現場では、ベテラン作業者の動画に作業時間を入れる工夫を行なっている。外国人に分かりやすいことは日本人にも分かりやすいと考え、古きよきものを残しつつ最新技術を取り入れる教育訓練に取り組んでいる。

【ケース・スタディ】技術者基礎としての管理技術教育


金沢工業大学の石井和克先生に「技術者基礎としての管理技術教育~キャリアデザインと管理技術の融合をめざして~」と題して執筆いただいた。
本稿では、先生が開発されている管理技術教育プログラムと実施結果における履修者の態度変容についての検討事例を説明いただいた。本プログラムは、管理技術を標準化と改善のための技術と位置づけ、管理の輪と学習プロセスモデルを組み合わせ、キャリアデザインと融合したものであり、個人学習と協同学習を組み合わせて運用している。コロナ禍のリモート学習においては、協同学習では見えなかった個々の学習者の深い理解への変化が、個人別課題の指導を通じて見えてきたという発見があった。その一方で、協同学習における学習者の暗黙知と共感性の共有に対するデジタル技術の限界の検証に取り組む必要性が明らかとなった。

【ケース・スタディ】今始まる日本一フレキシブルな「実学教育」


愛知県立愛知総合工科高等学校専攻科の鈴木直樹氏、西村亮氏に「今始まる日本一フレキシブルな『実学教育』~全国初の公設民営学校による『高度ものづくり人材』の育成~」と題して執筆いただいた。
本専攻科は愛知県が国家戦略特区制度の認定を受け、全国初の公設民営学校として開設された。学科・コース編成は、愛知県の自動車などの産業を活かした構成で、高度な知識と技術・技能を有する生産現場のリーダーの育成をめざしている。授業カリキュラムは座学6(大学レベルの教育)、実習4の構成で、特に実習に重点が置かれている。実習は6割を占める実務家教員により展開され、県派遣教員も実務家教員主導のアクティブラーニングを学び、後に発足する工科高等学校の教育現場で新たな教育手法を展開することになっている。コロナ禍のオンライン教育では、世界中の現地現物を目で見て理解を深めるという可能性を見いだすことに成功した。

【プリズム】「数値化できない技術」を継承できる人財をいかに育てるか


柘製作所の三井弘司氏に取材を行ない「『数値化できない技術』を継承できる人財をいかに育てるか~柘製作所のモノづくり~」と題して記事をまとめた。
同社のハンドメイドパイプは、職人が材料のセレクトからデザイン考案、製造、仕上げまで、すべて1人で行なっている。それには高度な技術力が必要とされ、師匠について学んでいく。職人世界で言われている「見て覚えろ」ではなく、つくってみて、分からないところは師匠に聞いて、の繰り返しである。同社は職人集団でありながら会社組織でもあり、自分たちの道は楽しく仕事ができる環境づくりと考えている。また新たなチャレンジとして、後継者不在の伝統工芸を引き継ぐ取り組みを始めた。同社には伝統技術を続けていくことが職人の道であるという強い意志が感じられる。