安全再構築:ソフトとハードの両面から


2021年8月 321号発行:2021年8月1日
  • 巻頭言


    デジタルでIEを高度化
    東原敏昭/日本IE協会会長・㈱日立製作所
  • 特集テーマのねらい(特集記事)


    安全再構築:ソフトとハードの両面から
    江頭誠/企画担当編集委員
  • 論壇(特集記事)


    ヒューマンエラーの黒幕を探る
    小松原明哲/早稲田大学
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    サーモグラフィカメラを用いた火災予防システムの構築
    太田健司/リコーインダストリー㈱
    概要
  • ケース・スタディ(特集記事)


    人を活かした物流システムの構築
    上村博之/中部興産㈱ 市来嵜治/岐阜大学
    概要
  • テクニカル・ノート


    組立産業における人と機械が共存する働き方についての基礎調査と考察
    板垣はるか/成蹊大学卒業生 金桂香/成蹊大学 市来嵜治/岐阜大学 篠田心治/成蹊大学
  • コラム(116)

  • 協会ニュース

  • 連携団体法人会員一覧

  • 編集後記

特集テーマのねらい


生産システムの管理として、一般に、PQCDSME(P:生産性、Q:品質、C:コスト、D:納期、S:安全性、M:士気、E:環境)の7つが取り上げられますが、Pを高めるためには、構造的にQCDの強化とSMEの基礎固めが必要となります。つまり、安全衛生体制が整備され、安全性・快適性が確保されれば、従業員は不安に捉われず、積極的に仕事に取り組むことができ、その結果、職場のモラールが維持され、労働生産性や業績の向上に資するということをマネジメント層は再認識すべきと考えます。
一方で、近年の厚生労働省統計を見ると、休業4日以上の死傷者数は2009年で下げ止まり、その後は微増の状況で、2020年は127,000人を超えています。個人的には、その根底に労働力不足による見えざる重圧(過重労働の発生や納期遵守のプレッシャー)が影響しているのではないかと感じています。昨今の品質不祥事についても同様のことがいえるかもしれません。厳しい経営環境下、売上や収益に結びつく業務や行動を優先した結果、企業の安全衛生管理への意識が相対的に低下してしまったことが理由の1つと考えられるのではないでしょうか。
さらに統計面で気がかりなのは、例年、各業種における休業4日以上の災害の9割以上に不安全な行動が認められるということです。安全再構築のソフト面では、「不安全行動」である「ヒューマンエラー(不注意に起因する行動)」と「リスクテイキング(あえて危険性のある行動を選んでしまう行為)」の2点に着目し、そのような行動をとってしまう心理状態を明らかにし対策していくことが重要と考えます。ただし、リスクテイキングについては、「これくらいは大丈夫だろう」「自分が事故を起こすはずがない」など、慣れや過信からくる意識的で自覚的な行動であるため、対策が厄介になります。不安全行動を排除するためには、厳格な教育・研修やKYT(危険予知トレーニング)も必要ですが、「管理者層の働く人に寄り添う管理の強化」や「的確な作業指示」「適切な労働量の設定」といったマネジメント上の注意も不可欠になるでしょう。
本特集号では、「働く人の安全・安心を守る」という視点を大切にし、ソフト(理念、組織・体制づくり、教育、不安全行動への対応)とハード(ICT機器を含む設備装置、自動化など)の両面から労働安全の本質を見つめ、「安全再構築」の手がかりを掴めればと思っております。

記事構成


  • 論壇


    早稲田大学の小松原明哲先生に「ヒューマンエラーの黒幕を探る~生産年齢人口減とこれからの安全への取り組みを巡って~」と題して執筆いただきました。
    ヒューマンエラー(不注意に起因する行動)が人に向けば労災、モノに向けば品質事故となり、事故としては両者は同根であるという考えに立って、労災、品質事故の昨今の事例を参照しながら、ヒューマンエラーの黒幕について分かりやすく解き明かしていただきました。黒幕は人手不足と現場スタッフの変化であり、ズバリ本質的な原因に触れられています。
    対策の1つとして、IEによる改善の重要性についても言及いただきました。改善の成果である削減された時間を生産能力の向上に振り向けるのではなく、限られた人員でもミスなく確実に業務ができるよう、現場の時間的・心理的余裕へと振り向けることが重要であるという提言は、大切なポイントだと思います。
    また、作業環境管理には人間工学的改善が必要になりますが、その着眼点のキーワードに「にくいもの」を取り上げているところが参考になります。「見にくい」「聞きにくい」「覚えにくい」「分かりにくい」「歩きにくい」などといった「作業がしにくい」状態は、事故の誘因となり、改善対象として目の付け所になります。
    その他、本当に役立つマニュアルの活用についても言及いただきました。雇用の流動化や現場スタッフの変化が頻繁に発生すれば、マニュアル化は重要な施策になります。人間工学におけるSafety-Ⅰ、Safety-Ⅱ、レジリエンスの定義、3種類のマニュアルタイプ(墨守型、遵守型、参照型)の使い分けなど、大変示唆に富んだ内容となっています。
  • ケース・スタディ


    • ①リコーインダストリーの太田健司氏に「サーモグラフィカメラを用いた火災予防システムの構築」と題して執筆いただきました。本システムは、小火災後の再発防止手段としてサーモグラフィカメラを活用し火災予防システムを構築したものです。点検とメンテナンスの頻度アップだけで再発を防止することは現実的に困難であり、次の5つのコンセプト「①出火前の予兆判定、 ②広範囲、暗所、高所の監視、③24時間監視、④配管外からの監視(非接触でデータを取得)、⑤安価なシステムの構築」を設定し、それらを満足するシステムの実現に取り組みました。
      配管内や排熱ダクト内に、化成品の堆積物や炭化物が残るような装置を保有する企業にとっては、本システムの検討プロセスは、大変参考になるものと思います。
      リコーグループでは製造現場をデジタルの力で変革すべく、DM(Digital Manufacturing)活動に取り組んでおり、予兆検出はこの活動で培ったデータを扱う技術をもって具現化されました。システムの発報条件は、①上限温度閾値オーバー、②温度変化勾配閾値という2段構えになっています。複数の熱源を持つため、PC1画面をグリッド状に分割し、各グリッドごとに、それぞれの熱源の温度表示と閾値の設定に対応しています。
      なお、本システムの応用範囲として、電装系の異常検出のような設備保全分野や作業環境温度管理による働きやすさの向上が期待でき、また、インフルエンザ、コロナウィルスによる発熱など、健康管理分野での有効活用も視野に入れ活動を進めていくとのことです。
    • ②中部興産の上村博之氏、岐阜大学の市来嵜治先生に「人を活かした物流システムの構築~中部興産(バローグループ)の取り組み~」と題して執筆いただきました。
      中部興産は、スーパーマーケット、ホームセンター、ドラッグストアを展開するバローグループの中で、物流インフラの設計施工、運営などの物流事業に特化した企業です。物流はサービス業であり、一番の経営資源は現場で働く人たちです。特にスーパーマーケットでは取り扱う商品が多様であり、小さい商品や柔らかい商品など、少なくとも現段階では機械で取り扱うことが困難なものも多く、今後商品の種類も増えていく傾向にあり、人が関与する部分がゼロになることは難しい状況のようです。つまり、人と機械の協業状態は残り、不安全要素が潜むことになります。このような作業に取り組まれている方々に安全に対する意識を持ってもらうとともに、働きやすい環境を作り上げることが管理者の役割として求められています。
      ハード的な取り組みとして、作業者とリーチリフトの動線が交差する場所に、ホーンを鳴らすだけでなく青い光の線を床に照射して視覚的にもリフト接近が分かるようにしたり、また、フォークリフトで入庫用コンベアにパレットを積載した後、フォークに乗車したまま、パレットの自動送り込みを実現しています。
      ソフト的な取り組みとしては、安全衛生委員会の実施、現場の相互パトロール、ヒヤリハット情報の共有化と実施状況フィードバックなどを推進していますが、管理部部長からは、これらの取り組みはあくまで手段の1つであり、大事なことは日常的なコミュニケーションの中で、不安全な箇所や作業のやりにくさなどについて直接聞き、それを社内で共有できるような環境づくりが大切との提言をいただきました。

まとめ


今回の特集を通して、改めて安全管理にも、IE的アプローチ・思考が有効であると感じました。自動化は元より、管理者にはコミュニケーション力を発揮していただき、働きやすく風通しの良い職場づくり、問題点をはっきりと語り合える職場づくりに注力いただきたいと思います。また、論壇にて小松原教授が述べておられるように、「相手の実情を考え、ともに悩む姿勢で接すること」を大切にしたいと思います。
今回の特集では取り上げることができませんでしたが、メンタルヘルス対応、BCP(事業継続計画)対応(防災・防疫対応)、SDGs視点からの取り組み、労働安全衛生マネジメントシステム(ISO45001)の構築と有効活用などについても、また別の機会に事例を紹介できればと思っています。
企画担当編集委員/江頭誠

【論壇】ヒューマンエラーの黒幕を探る


早稲田大学の小松原明哲先生に「ヒューマンエラーの黒幕を探る~生産年齢人口減とこれからの安全への取り組みを巡って~」と題して執筆いただきました。
ヒューマンエラー(不注意に起因する行動)が人に向けば労災、モノに向けば品質事故となり、事故としては両者は同根であるという考えに立って、労災、品質事故の昨今の事例を参照しながら、ヒューマンエラーの黒幕について分かりやすく解き明かしていただきました。黒幕は人手不足と現場スタッフの変化であり、ズバリ本質的な原因に触れられています。
対策の1つとして、IEによる改善の重要性についても言及いただきました。改善の成果である削減された時間を生産能力の向上に振り向けるのではなく、限られた人員でもミスなく確実に業務ができるよう、現場の時間的・心理的余裕へと振り向けることが重要であるという提言は、大切なポイントだと思います。
また、作業環境管理には人間工学的改善が必要になりますが、その着眼点のキーワードに「にくいもの」を取り上げているところが参考になります。「見にくい」「聞きにくい」「覚えにくい」「分かりにくい」「歩きにくい」などといった「作業がしにくい」状態は、事故の誘因となり、改善対象として目の付け所になります。
その他、本当に役立つマニュアルの活用についても言及いただきました。雇用の流動化や現場スタッフの変化が頻繁に発生すれば、マニュアル化は重要な施策になります。人間工学におけるSafety-Ⅰ、Safety-Ⅱ、レジリエンスの定義、3種類のマニュアルタイプ(墨守型、遵守型、参照型)の使い分けなど、大変示唆に富んだ内容となっています。

【ケース・スタディ】サーモグラフィカメラを用いた火災予防システムの構築


リコーインダストリーの太田健司氏に「サーモグラフィカメラを用いた火災予防システムの構築」と題して執筆いただきました。本システムは、小火災後の再発防止手段としてサーモグラフィカメラを活用し火災予防システムを構築したものです。点検とメンテナンスの頻度アップだけで再発を防止することは現実的に困難であり、次の5つのコンセプト「①出火前の予兆判定、 ②広範囲、暗所、高所の監視、③24時間監視、④配管外からの監視(非接触でデータを取得)、⑤安価なシステムの構築」を設定し、それらを満足するシステムの実現に取り組みました。
配管内や排熱ダクト内に、化成品の堆積物や炭化物が残るような装置を保有する企業にとっては、本システムの検討プロセスは、大変参考になるものと思います。
リコーグループでは製造現場をデジタルの力で変革すべく、DM(Digital Manufacturing)活動に取り組んでおり、予兆検出はこの活動で培ったデータを扱う技術をもって具現化されました。システムの発報条件は、①上限温度閾値オーバー、②温度変化勾配閾値という2段構えになっています。複数の熱源を持つため、PC1画面をグリッド状に分割し、各グリッドごとに、それぞれの熱源の温度表示と閾値の設定に対応しています。
なお、本システムの応用範囲として、電装系の異常検出のような設備保全分野や作業環境温度管理による働きやすさの向上が期待でき、また、インフルエンザ、コロナウィルスによる発熱など、健康管理分野での有効活用も視野に入れ活動を進めていくとのことです。

【ケース・スタディ】人を活かした物流システムの構築


中部興産の上村博之氏、岐阜大学の市来嵜治先生に「人を活かした物流システムの構築~中部興産(バローグループ)の取り組み~」と題して執筆いただきました。
中部興産は、スーパーマーケット、ホームセンター、ドラッグストアを展開するバローグループの中で、物流インフラの設計施工、運営などの物流事業に特化した企業です。物流はサービス業であり、一番の経営資源は現場で働く人たちです。特にスーパーマーケットでは取り扱う商品が多様であり、小さい商品や柔らかい商品など、少なくとも現段階では機械で取り扱うことが困難なものも多く、今後商品の種類も増えていく傾向にあり、人が関与する部分がゼロになることは難しい状況のようです。つまり、人と機械の協業状態は残り、不安全要素が潜むことになります。このような作業に取り組まれている方々に安全に対する意識を持ってもらうとともに、働きやすい環境を作り上げることが管理者の役割として求められています。
ハード的な取り組みとして、作業者とリーチリフトの動線が交差する場所に、ホーンを鳴らすだけでなく青い光の線を床に照射して視覚的にもリフト接近が分かるようにしたり、また、フォークリフトで入庫用コンベアにパレットを積載した後、フォークに乗車したまま、パレットの自動送り込みを実現しています。
ソフト的な取り組みとしては、安全衛生委員会の実施、現場の相互パトロール、ヒヤリハット情報の共有化と実施状況フィードバックなどを推進していますが、管理部部長からは、これらの取り組みはあくまで手段の1つであり、大事なことは日常的なコミュニケーションの中で、不安全な箇所や作業のやりにくさなどについて直接聞き、それを社内で共有できるような環境づくりが大切との提言をいただきました。