モノづくりを支える人材の育成/技術・技能伝承
2023年10月 / 332号 / 発行:2023年10月1日
目次
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巻頭言
未来を見据えたIE活動
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特集テーマのねらい(特集記事)
モノづくりを支える人材の育成/技術・技能伝承
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論壇(特集記事)
改善を楽しむ -生産現場の生産性向上-
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ケース・スタディ(特集記事)
電線・ケーブル工場におけるデジタル化の取り組みと人材育成
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ケース・スタディ(特集記事)
事業に資するデータ利活用人財育成
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講演(特集記事)
キャタラー流 現場力向上と人づくり
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講演(特集記事)
累計3万件の改善をする「現場力」と人財育成
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会社探訪
安全・安心な乗客輸送を支える鉄道車両基地での入念な点検・整備および車両再生-西日本鉄道(株)-
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現場改善
製品倉庫から岸壁船積までの製品物流効率化
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レポート
第52回「日本IE文献賞」受賞文献のご報告
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コラム(127)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
モノづくりを支える人材の育成/技術・技能伝承、この概念は何時の時代においても欠くことのできない各社の生産を支える根幹です。
デジタル化が進み、様々な生産の情報が蓄積され、データを通してあらゆる状況が確認できるようになってきていますが、その確認やその結果を改善へつなげる物ごとの考え方を生み出すのはあくまで人でしかありません。
一方、各社が直面している課題は人材の不足でしょう。これまでの日本の生産を築いてきた世代は高齢化し、これからを支える若い方々は人口が激減。各社は良き人材を獲得すべく鎬を削っているのではないでしょうか。さらに、実際に良い人材を確保できたとしても、その人材を上手く育てなければ今後の会社存続もままなりません。
このように、現代の生産現場では、以下のような様々な課題を抱えなければならない状況に置かれています。
①急激に進化するデジタル化・IoT化・ICT化
②自動化の加速
③少子高齢化
④人材不足
⑤部品調達難および価格の高騰 など
そこで本特集では、モノづくりを支える人材の育成事例や、シニア世代が若手へつなぐ技術・技能の伝承事例、さらには加速化する現代の生産現場のデジタル化について、現場を支える人材にどのように活躍の場を与え、現場の生産性を上げているのかなど、幅広い事例を紹介することによって、人材育成と技術・技能伝承の重要性を再認識し、再考の議論を深め、さらなる普及・発展を促すことをねらいとしました。
記事構成
今回の特集では、論壇1件、ケース・スタディ2件、講演2件の計5件の記事を掲載しています。主な内容を、以下に要約して紹介します。
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論壇
2023年3月に日本生産性本部・生産性労働情報センターから発行された『15人の経営コンサルタントによる生産性向上策』に掲載された内容をもとに「改善を楽しむ~生産現場の生産性向上~」というテーマで、日本生産性本部の矢島浩明氏の記事を転載いたしました。
記事では、まず、自主自律的かつ常態的に改善に取り組むことができている現場は稀であること、環境変化がさらに早まる中で、問題発見力や改善能力のレベル向上が必要であること、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に関する取り組みのレベルのバラツキが大きいことと、その一方で、その取り組みの前提となる改善能力がともなっていないこと、生産性向上のため、分母を小さくするのではなく、分子を大きくすることに貢献できる余地が大きくあることをあげて、生産性向上に取り組む必要性を訴えています。そして、テーマにある「改善を楽しむ」ことが要諦であるとして、現場の担当者らに改善の楽しさを知ってもらうことが改善活動のレベル1であり、楽しさを伝えたり、知っていない限り、継続的な改善にはつながりにくいと述べておられます。
後半では、自主自律的かつ常態的、継続的に改善を推進する組織風土の醸成に必要な仕組みづくりや改善に役立つ様々なIEおよび経営工学的アプローチの解説を展開されておられます。継続的に改善活動を進めていくために、改善の楽しさを伝えていくことが出発点になるという考え方、様々な手法を学ぼう・学ばせよう、さらに早期に改善の効果を出そうという考え方が改善の楽しさを理解するためにはリスクになるという主張は、この特集テーマを企画した際の原点とも言える大切な論点だと感じています。 -
ケース・スタディ
- ①大電の森健太郎氏に、「電線・ケーブル工場におけるデジタル化の取り組みと人材育成」というテーマで執筆いただきました。
同社佐賀事業所の電線・ケーブル向上の製造現場におけるデジタル化の取り組みと、デジタル人材の育成について紹介してくださっています。会社紹介と電線・ケーブル製造工程の説明に続いて、DIPROV(Dyden IoT Production Progress Visualization system)と称するIoTを活用した、生産実績を蓄積するシステムの開発経緯、同システムに蓄積されたデータを、BIツールを用いて稼働状況のリアルタイム監視(可視化)や異常を含む実績データの分析への拡張に至る詳細を披露してくださっています。さらに、デジタル化に対応する人材の育成に関しては、システム開発を外部委託ではなく、内製により製造部門と情報システム部門とが連携して行なうことで、各部門が有していなかったデジタルスキルを、開発を通して習得が進んだこと、開発経験者と未経験者とがペアを組んで報告書の電子化を実施したこと、コラボレーションツールを活用してデジタル技術に関連する活用事例やスキルの学習方法などを共有することなどを紹介していただいています。 - ②島津製作所の丸山和也氏と山川大幾氏には、「事業に資するデータ利活用人財育成~課題の本質を見立てて、打ち手へ~」というテーマで執筆いただきました。
この記事では、同社において2023年4月に本格的に始まった、データ利活用のための人材育成の事例を紹介いただいています。同社ではDXを推進するためのビジョンを掲げ、それに基づいて、2025年度までにデータ活用のための知識を備えた人(初心者)を3,000人、データ解析ができ、仮説・検証ができる人(初学者)を500人、データを活用したビジネスモデル変革やシステム導入の提案ができる人(実務者=ビジネスアナリスト:BA)を125人育成することを目標としてることが述べられています。さらに本格実施前のトライアル事例として、グローバルSCMの担当係長を例に具体的な取り組みと、本格実施後の初学者および実務者(BA)研修の実施内容とをそれぞれ紹介してくださっています。
- ①大電の森健太郎氏に、「電線・ケーブル工場におけるデジタル化の取り組みと人材育成」というテーマで執筆いただきました。
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講演(全国IE年次大会)
- ①キャタラーの石田雅資氏による「キャタラー流 現場力向上と人づくり~ 3歩進んで2歩進む人財育成~」と題した講演内容を誌面に再現しました。
同社が1997年からTQM活動に取り組んでおり、2015年にデミング賞、2018年にデミング大賞を受賞したことを語られた後、同社におけるTQM活動の経緯の他、経営目標や経営戦略についても披露いただいています。さらに、その後も本特集テーマに合致した、現場力向上と人づくりにについて、C-QIC(Cataer-Quality Innovation Challenge)やQCサークル活動の活性化と推進など、TQM活動を通して行なわれた特徴的な取り組みをお話しいただきました。 - ②ソシオークホールディングスの富井三枝子氏と倉澤佳織氏による「累計3万件の改善をする『現場力』と人財育成~社員1人1人が自ら課題を見つけ改善するカルチャーを形成~」題した講演内容を掲載しました。
同社が展開する事業は、少子高齢化の進行と共働き世帯が増加する中において子育て世代を支えるという意味において、社会的意義が高いものばかりです。この講演では、そのうちの給食提供などのフードサービス事業に焦点を当てて、人財育成としてのエバンジェリスト養成活動や現場力改善の実践例を紹介くださいました。オリジナルキャラクター「現場力カイゼンジャー」による見える化、3M、5S、標準化、言える化、のなどの5本柱の横展開は、前述の論壇において述べられていた「改善を楽しむ」ことや「やらされ感」の打破につながる取り組みといえると思います。
- ①キャタラーの石田雅資氏による「キャタラー流 現場力向上と人づくり~ 3歩進んで2歩進む人財育成~」と題した講演内容を誌面に再現しました。
おわりに
【論壇】改善を楽しむ -生産現場の生産性向上-
2023年3月に日本生産性本部・生産性労働情報センターから発行された『15人の経営コンサルタントによる生産性向上策』に掲載された内容をもとに「改善を楽しむ~生産現場の生産性向上~」というテーマで、日本生産性本部の矢島浩明氏の記事を転載いたしました。
記事では、まず、自主自律的かつ常態的に改善に取り組むことができている現場は稀であること、環境変化がさらに早まる中で、問題発見力や改善能力のレベル向上が必要であること、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に関する取り組みのレベルのバラツキが大きいことと、その一方で、その取り組みの前提となる改善能力がともなっていないこと、生産性向上のため、分母を小さくするのではなく、分子を大きくすることに貢献できる余地が大きくあることをあげて、生産性向上に取り組む必要性を訴えています。そして、テーマにある「改善を楽しむ」ことが要諦であるとして、現場の担当者らに改善の楽しさを知ってもらうことが改善活動のレベル1であり、楽しさを伝えたり、知っていない限り、継続的な改善にはつながりにくいと述べておられます。
後半では、自主自律的かつ常態的、継続的に改善を推進する組織風土の醸成に必要な仕組みづくりや改善に役立つ様々なIEおよび経営工学的アプローチの解説を展開されておられます。継続的に改善活動を進めていくために、改善の楽しさを伝えていくことが出発点になるという考え方、様々な手法を学ぼう・学ばせよう、さらに早期に改善の効果を出そうという考え方が改善の楽しさを理解するためにはリスクになるという主張は、この特集テーマを企画した際の原点とも言える大切な論点だと感じています。
【ケース・スタディ】電線・ケーブル工場におけるデジタル化の取り組みと人材育成
大電の森健太郎氏に、「電線・ケーブル工場におけるデジタル化の取り組みと人材育成」というテーマで執筆いただきました。
同社佐賀事業所の電線・ケーブル向上の製造現場におけるデジタル化の取り組みと、デジタル人材の育成について紹介してくださっています。会社紹介と電線・ケーブル製造工程の説明に続いて、DIPROV(Dyden IoT Production Progress Visualization system)と称するIoTを活用した、生産実績を蓄積するシステムの開発経緯、同システムに蓄積されたデータを、BIツールを用いて稼働状況のリアルタイム監視(可視化)や異常を含む実績データの分析への拡張に至る詳細を披露してくださっています。さらに、デジタル化に対応する人材の育成に関しては、システム開発を外部委託ではなく、内製により製造部門と情報システム部門とが連携して行なうことで、各部門が有していなかったデジタルスキルを、開発を通して習得が進んだこと、開発経験者と未経験者とがペアを組んで報告書の電子化を実施したこと、コラボレーションツールを活用してデジタル技術に関連する活用事例やスキルの学習方法などを共有することなどを紹介していただいています。
【ケース・スタディ】事業に資するデータ利活用人財育成
島津製作所の丸山和也氏と山川大幾氏には、「事業に資するデータ利活用人財育成~課題の本質を見立てて、打ち手へ~」というテーマで執筆いただきました。
この記事では、同社において2023年4月に本格的に始まった、データ利活用のための人材育成の事例を紹介いただいています。同社ではDXを推進するためのビジョンを掲げ、それに基づいて、2025年度までにデータ活用のための知識を備えた人(初心者)を3,000人、データ解析ができ、仮説・検証ができる人(初学者)を500人、データを活用したビジネスモデル変革やシステム導入の提案ができる人(実務者=ビジネスアナリスト:BA)を125人育成することを目標としてることが述べられています。さらに本格実施前のトライアル事例として、グローバルSCMの担当係長を例に具体的な取り組みと、本格実施後の初学者および実務者(BA)研修の実施内容とをそれぞれ紹介してくださっています。
【講演】キャタラー流 現場力向上と人づくり
キャタラーの石田雅資氏による「キャタラー流 現場力向上と人づくり~ 3歩進んで2歩進む人財育成~」と題した講演内容を誌面に再現しました。
同社が1997年からTQM活動に取り組んでおり、2015年にデミング賞、2018年にデミング大賞を受賞したことを語られた後、同社におけるTQM活動の経緯の他、経営目標や経営戦略についても披露いただいています。さらに、その後も本特集テーマに合致した、現場力向上と人づくりにについて、C-QIC(Cataer-Quality Innovation Challenge)やQCサークル活動の活性化と推進など、TQM活動を通して行なわれた特徴的な取り組みをお話しいただきました。
【講演】累計3万件の改善をする「現場力」と人財育成
ソシオークホールディングスの富井三枝子氏と倉澤佳織氏による「累計3万件の改善をする『現場力』と人財育成~社員1人1人が自ら課題を見つけ改善するカルチャーを形成~」題した講演内容を掲載しました。
同社が展開する事業は、少子高齢化の進行と共働き世帯が増加する中において子育て世代を支えるという意味において、社会的意義が高いものばかりです。この講演では、そのうちの給食提供などのフードサービス事業に焦点を当てて、人財育成としてのエバンジェリスト養成活動や現場力改善の実践例を紹介くださいました。オリジナルキャラクター「現場力カイゼンジャー」による見える化、3M、5S、標準化、言える化、のなどの5本柱の横展開は、前述の論壇において述べられていた「改善を楽しむ」ことや「やらされ感」の打破につながる取り組みといえると思います。