IEが切り拓くモノづくりのダイバーシティ
2023年12月 / 333号 / 発行:2023年12月1日
目次
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巻頭言
変化の時代のモノづくりとIEの本質
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特集テーマのねらい(特集記事)
IEが切り拓くモノづくりのダイバーシティ
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論壇(特集記事)
ダイバーシティ経営の心構え
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ケース・スタディ(特集記事)
ユニバーサルライン構築の取り組み
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ケース・スタディ(特集記事)
多様化する時代の組織づくりに求められているもの
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ケース・スタディ(特集記事)
障がいのある方と一緒に働く -そこから生まれるモノづくりの楽しさ:TIY(株)と信濃工業(株)-
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ケース・スタディ(特集記事)
ビジネスと国際協力で「共生」の未来を描く
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テクニカル・ノート(特集記事)
日本企業に求められる「インクルージョン」
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会社探訪
「ひろば経営」×「事業経営」で価値創造に取り組む「人間村カンパニー」-(株)関ケ原製作所-
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現場改善
国立印刷局における業務改善活動
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コラム(128)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
“ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂性)”は、どちらもSDGsの指針であり、これら二つが両立することにより価値が生じる。しかし実際は、この順番に意味がある。企業ではインクルージョンがあって初めてダイバーシティの活躍へとつながっていく。“インクルージョン&ダイバーシティ”となる。
インクルージョン・マネジメントとは、従業員が所属意識を持ち、企業目標達成へ向かって自分らしさを発揮しているという自覚を持つことができることである。そのプロセスにおいて、従業員が心理的安全性ややりがいを知覚すると、エンゲージメント(自発的貢献意欲)につながっていく。日本人、それも男性だけの同質的な職場であっても、インクルージョンがなければ働き手にエンゲージメントを期待することはできない。従業員が企業と一体になり、企業に貢献する意図を持って業務に打ち込むことは、新たな気づきや仕事のパフォーマンス向上だけでなく、人間としての成長やウェルビーイングにも直結していく。エンゲージメントには深い信頼と強いつながりが基盤となるが、その構築の一翼を担っているのが、製造現場であればIEスタッフであり、職場のQCD向上を念頭におき、多様な人財を様々な面からサポートしていく。具体例をあげると、女性や高齢者が作業しやすい組立ラインを設定する。また障がいのある人が容易に作業できるような治具を設定する。男性だけなら考えない、また健常者ならできるだろうと何も工夫しない組立ラインに関して一歩踏み込み、働き手目線で創意工夫をしていく。このような改善をすることで、結果的に誰もが組み立てやすいラインへと変わっていく。
日本語の理解ができない外国籍人財に対しては、通訳の説明だけでなく動画などで説明していくという実例を聞くが、意図が伝わっているのかどうかの確認の取り方にどのような工夫を凝らしているのだろうか。他方で外国籍人財の意見を聞ける人財育成を進めていくことも重要であろう。このような外国籍人財の目線での創意工夫も新たな気づきを与えてくれる。
さらに、IEスタッフは多様な人財の能力と向き合い、どこにどういった能力が必要とされており、そこにはどの人財をマッチングさせていくのかを見極めていかなければならない。多様な人財の強みをうまく組み合わせることによって作業を継続させていけるように考えていく必要がある。一例として、高齢者と子育て中の女性との連携をあげることができる。このようなIEスタッフによる1つ1つの改善活動を通して、ダイバーシティを現場の原動力にしていくことが、未来へとつながっていく。
記事構成
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論壇
南山大学の安藤史江先生に「ダイバーシティ経営の心構え~人や組織の可能性を引き出すための組織的工夫を~」と題して執筆いただいた。
ダイバーシティ&インクルージョンにエクイティ(公平性)が加わった「ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン」は、多様な人財間に存在する個人差を考慮し、その差に見合った形で機会や資源を提供することで、誰もが本来もっている能力を最大限に発揮できるようにするという考え方である。企業経営においてこの考え方を実践していくには、時に短期的な経済合理性を犠牲にしつつも、より長期的・鳥瞰的な視点を持ち、人や組織の可能性を最大限に引き出すための仕組みづくりをしていくことが重要である。大橋運輸は、そういったハードルを克服した真のダイバーシティ経営を実践する事例である。同社は、組織内に存在する問題を克服するために、自分たちは何をしたいか、すべきかを、経営者・従業員が一体となって知恵を絞っている。 -
ケース・スタディ
- ①フタバ産業の金子隆光氏と福井正三氏に「ユニバーサルライン構築の取り組み~作業負荷が低く、誰もが、安全に、いきいきと働ける工程づくり~」と題して執筆いただいた。同社は、定年後再雇用制度の見直しとともに誰もが安全にいきいきと働ける職場環境整備に取り組んでいる。その1つがユニバーサルライン構築の取り組みである。身体的負荷が高いと思われる工程を選定し、負荷を「数値化」、高齢者・女性・障がいを持たれた方が働く工程の「基準」を明確にする。定量的な把握は工程改善を容易にし、直接的な身体負荷の低減だけでなく、サイクルタイム短縮、安全性・品質・生産性にも寄与する。さらに導入される新規設備へもその基準を反映することができる。技術本部と生産技術本部が作業環境基準を生産技術規定へ織り込んでいく。
- ②富士特殊紙業の深堀純一氏に「多様化する時代の組織づくりに求められているもの」と題して執筆いただいた。同社が業界で最も早く実用化させた水性グラビア印刷には、その当時のベテラン従業員の技術力と経験が不可欠であった。30年近く前の1994年にあらかじめ60歳定年を66歳へと引き上げ、定年間近のベテラン従業員に開発の中心を担ってもらった。さらに66歳定年後の高齢者が無理なく働ける職場環境を構築し、女性が活躍できるように事業所内保育園を立ち上げ、育児短時間勤務期間延長を実施している。地域の高等特別支援学校とは密に連携をとり、障がい者雇用を推進している。同社における「一生仲間のままで」というモットーが、ダイバーシティ経営推進の基本的な考え方となっている。
- ③TIYにおける全国障害者問題交流会のリハーサルと信濃工業へのインタビューを通して「障がいのある方と一緒に働く~そこから生まれるモノづくりの楽しさ:TIYと信濃工業」と題して愛知工業大学の加藤里美が記事にまとめた。TIYの小出晶子社長がどういった経緯で障がいのある方と一緒に働くことを始め、継続しているのか、その背景を紹介するとともに、技術者の父から受け継いだ見方を変えたユニークな発想のモノづくりを提案し、年齢、性別、障がいの有無に関係なく働ける環境を整えていったのかを説明している。そこには思いを共有する専用機メーカーの信濃工業という仲間も存在し、両社が協力し合いながら障がいのある方と一緒に働くことで生まれるモノづくりの面白さと楽しさを実感していることを伝えている。
- ④西野工務店に取材を行ない「ビジネスと国際協力で「共生」の未来を描く~西野工務店の取り組み~」と題して記事をまとめた。同社は創立55周年を迎え、従業員の高年齢化にともなって大工などの技能者・技術者不足が懸念されていたが、ラオスとの接点により現地法人を設立、労働力としてラオス人を迎え入れるようになった。外国籍人財を受け入れるにあたり、久池定光社長が留意するのは、文化の違いから勘違いが起きないように観察し、その違いを認め合うことである。それには30年前にブラジル人や韓国人を受け入れた経験が活きている。また外国人財とともに働く秘訣である「決めつけはいけない」という考えの下、仕事以外のつながりも大事にしている。同社は「外国籍の人向け」に現場を変えることなく、日本とラオスがともに元気で事業や人材育成が循環できる仕組みを整えつつある。
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テクニカル・ノート
近畿大学の古沢昌之先生に「日本企業に求められる「インクルージョン」~外国人留学生の採用・活用を巡る状況を踏まえて~」と題して執筆いただいた。
東証1部上場企業に行なったアンケート調査結果は、日本企業が外国人留学生に対して、「日本人性」を暗黙裡に求めている旨を示唆していた。その一方で、採用する理由として「職場の多様性を高めたい」がトップとなっていた。これらのことから多くの日本企業における外国人留学生の雇用が「見せかけの多様性重視」で終わることがないよう、多様性が内包する潜在的効用にもっと目を向けるべきであり、日本企業には「インクルージョン」の実現に向けた変革の余地があることを考察した。その上で、インクルージョンを通して海外事業を拡大している本多機工の事例を示した。
おわりに
多様な人財が活躍できるためには、誰もが働きやすい職場環境を構築する必要がある。そのためには、企業におけるIEスタッフと考えられる方々の様々なサポートが重要となる。さらに、経営環境の変化に合わせてIEスタッフが改善を繰り返していける仕組みづくりが重要となる。その前提として、社長を含めた企業全体においてインクルージョン・マネジメントがなされていなければならない。
本特集がインクルージョン・マネジメントの普及発展に向けて参考になることを祈念している。
【論壇】ダイバーシティ経営の心構え
南山大学の安藤史江先生に「ダイバーシティ経営の心構え~人や組織の可能性を引き出すための組織的工夫を~」と題して執筆いただいた。
ダイバーシティ&インクルージョンにエクイティ(公平性)が加わった「ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン」は、多様な人財間に存在する個人差を考慮し、その差に見合った形で機会や資源を提供することで、誰もが本来もっている能力を最大限に発揮できるようにするという考え方である。企業経営においてこの考え方を実践していくには、時に短期的な経済合理性を犠牲にしつつも、より長期的・鳥瞰的な視点を持ち、人や組織の可能性を最大限に引き出すための仕組みづくりをしていくことが重要である。大橋運輸は、そういったハードルを克服した真のダイバーシティ経営を実践する事例である。同社は、組織内に存在する問題を克服するために、自分たちは何をしたいか、すべきかを、経営者・従業員が一体となって知恵を絞っている。
【ケース・スタディ】ユニバーサルライン構築の取り組み
【ケース・スタディ】多様化する時代の組織づくりに求められているもの
【ケース・スタディ】障がいのある方と一緒に働く
【ケース・スタディ】ビジネスと国際協力で「共生」の未来を描く
【テクニカル・ノート】日本企業に求められる「インクルージョン」
近畿大学の古沢昌之先生に「日本企業に求められる「インクルージョン」~外国人留学生の採用・活用を巡る状況を踏まえて~」と題して執筆いただいた。
東証1部上場企業に行なったアンケート調査結果は、日本企業が外国人留学生に対して、「日本人性」を暗黙裡に求めている旨を示唆していた。その一方で、採用する理由として「職場の多様性を高めたい」がトップとなっていた。これらのことから多くの日本企業における外国人留学生の雇用が「見せかけの多様性重視」で終わることがないよう、多様性が内包する潜在的効用にもっと目を向けるべきであり、日本企業には「インクルージョン」の実現に向けた変革の余地があることを考察した。その上で、インクルージョンを通して海外事業を拡大している本多機工の事例を示した。