あらためて設備保全を考える
2025年6月 / 339号 / 発行:2025年6月15日
目次

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巻頭言
持続可能な未来に向けて
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特集テーマのねらい(特集記事)
あらためて設備保全を考える
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論壇(特集記事)
持続可能な社会に資するライフサイクルメンテナンス
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ケース・スタディ(特集記事)
保全について考える
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ケース・スタディ(特集記事)
製造業におけるIoTを活用した省エネ型設備管理の実践
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ケース・スタディ(特集記事)
TPM活動導入による職場の体質改善
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ケース・スタディ(特集記事)
予防保全を基軸とした設備管理体制の構築
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ケース・スタディ(特集記事)
量産板金フレーム加工の自動化の取り組みと設備保全の考え方
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ケース・スタディ(特集記事)
あらためて設備保全を考える
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テクニカル・ノート(特集記事)
革新的予防保全
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プリズム(特集記事)
工場DXで実現する生産部門全体でのデータドリブンな生産プロセス
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プリズム(特集記事)
どれだけ設備を使いこなしていますか?
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会社探訪
創る人を育てる会社のモノづくり-(株)ヒューテック-
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現場改善
予防保全体制の構築に向けた改善活動
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連載「モノづくり現場でキラリと輝く女性たち」
今「誠実に」動くことが未来の自分を助ける
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ビットバレーサロン
複数の事業部を横断するプロセスを改善するためには
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コラム(134)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
グローバル競争の激化、デジタル技術の発展、そして深刻な人手不足など製造業を取り巻く環境は急速に変化している。これらの課題に直面する製造業にとって、生産設備の安定稼働は、企業の競争力を維持・強化するための重要課題の1つとなっている。そこで「あらためて設備保全を考える」必要がある。「あらためて」には2つの意味合いがある。1つは、これまでの設備保全の価値を改めて再定義すること。もう1つは、これからの新たな設備保全を考えることである。
日本の製造業は、長年にわたりTPM®をはじめとした現場に根差した活動を通じて、世界トップレベルの設備保全を実現してきた。「壊れたら直す」という事後保全から「壊れる前に防ぐ」予防保全へと進化し、製造業の競争力を支えてきたことは再評価されるべきであろう。また保全性を考慮した設備づくりやその廃棄・再生を含めたライフサイクル全体を管理する包括的な活動体系へと発展する中で、安全、コスト、品質などの幅広い視野を持った人材の育成にも貢献してきた。一方で、熟練技術者の経験と勘に頼る部分も多く、人手不足、デジタル化、技術継承の課題に直面している。このような「これまでの設備保全」の価値を認識しつつ、その限界も見据える必要がある。AI、IoT、センサーなどのデジタル技術は、「これからの設備保全」の可能性を広げている。またサステナビリティと結びつくことにより、設備保全とグリーン化の取り組みの統合も進められており、設備メンテナンス業務自体が日々進化している。このような変化に対応するため、保全員の業務内容や求められるスキルもまた変化している。これらのデジタル技術や持続可能性への取り組みはこれまでの現場での設備保全活動を進化させる可能性を持つ一方で、実施には初期投資、運用ノウハウ、人材育成など様々な課題が存在している。
設備保全の本質は、製造設備を安定的に稼働させることで、生産性を向上し、企業の競争力と持続可能性に貢献することにあり、取り巻く環境がどれほど変化しても変わらないだろう。重要なのは、「これまでの設備保全」の現場での知恵と「これからの設備保全」を融合し、実情に合った最適な設備保全のあり方を考えることである。
本特集では、特に、現場の「困りごと」とその解決策に焦点をあてる。どの事例も成果の大きさでなく、取り組みのねらい、実践、課題などの詳細を記述すること力点を置いていただいている。
記事構成
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論壇
早稲田大学の髙田祥三氏には、「持続可能な社会に資するライフサイクルメンテナンス」と題して執筆いただいた。社会の持続性、サーキュラエコノミー、固定資産ストックの増大、高年齢化、人手不足といった背景から、メンテナンスの重要性の増大を指摘する。そして製品・設備のライフサイクル全体を通じた機能を最大限発揮させるための、ライフサイクルメンテナンスマネジメントのフレームワークを示し、核となる基本メンテナンス計画や継続的改善のための体制構築などを解説する。また、デジタル技術の活用は有効だが、メンテナンスマネジメントのフレームワークを明確に意識せず導入しても成果につながりにくいことを強調している。 -
ケース・スタディ
- ①エイベックスの児玉和也氏には、「保全について考える~エイベックスの考える保全~」と題して執筆いただいた。伊勢湾台風によって設備のオーバーホールを自社で行った経験が保全活動の原点となっており、「なんでも自前でやる」精神と人材育成を重視する企業文化にもつながっている。エイベックスの保全思想を示す中古設備活用事例では、中古設備のオーバーホールと量産工程に活用する取り組みや課題が述べられている。
- ②アスカカンパニーの渡邊太郎氏には、「製造業におけるIoTを活用した省エネ型設備管理の実践」と題して執筆いただいた。Raspberry Piなどの安価なツールから自社のデータ収集・可視化体制の構築を始め、空調の自動制御化や印刷機の予知保全導入により、本社工場でエネルギー原単位10%削減を実現した事例であり、成功の背景には、社内のデータ活用文化と、地域の支援機関との連携があったと分析している。
- ③オリエンタルモーターの二宮夏子氏には、「TPM活動導入による職場の体質改善」と題して執筆いただいた。オリエンタルモーター高松カンパニーにおけるTPM活動導入による体質改善事例であり、それまでの改善が維持できない課題を背景にTPMを導入し、復元・維持・改善の積み重ねができる体質を構築してきた。自主保全活動や教育訓練を通じた人財育成とその苦労した点、取り組みによる社内変化が詳細に述べられている。
- ④クボタの今中俊吾氏には、「予防保全を基軸とした設備管理体制の構築」と題して執筆いただいた。クボタ堺製造所が事後保全中心の体制からTBM(時間基準保全)とCBM(状態基準保全)による予防保全を基軸とした体制へ移行した取り組みである。体制構築のプロセスを時系列で報告し、予防保全の重要性を強調する氷山モデル、予防保全を効果的に実施する組織体制の考え方、予防保全における評価指標の設定など、この体制を確立する際の実践について述べられている。
- ⑤村田機械の武田康良氏には、「量産板金フレーム加工の自動化の取り組みと設備保全の考え方」と題して執筆いただいた。村田機械加賀工場における需要急増対応のための生産ラインの再構築や自動化、それにともない重要性を増した設備保全体制の変革について紹介している。安全在庫の設定による修理時間短縮、保全管理システムによる再発防止の取り組み、保全部門と現場の人材育成の活動への注力などが述べられている。
- ⑥東亜工業の白川悟氏には、「あらためて設備保全を考える~澱みなく流れるモノづくり工場の実現をめざして~」と題して執筆いただいた。東亜工業住宅事業部が30年のTPM経験の中で、「TPM推進のための3つの力」を体質化し、継続してきた事例である。生産現場で利益の出せる人づくり、体質づくりをめざす活動を行っており、自主保全のステップ展開図、計画保全の4ステップ展開など、段階的に取り組む流れが整理され詳細に紹介されている。
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テクニカル・ノート
- ロンド・アプリウェアサービスの中崎勝氏には、「革新的予防保全~これからの時代に対応する保全体制の構築~」と題して執筆いただいた。TPMコンサルタントとして著者が提唱する設備トラブルの20要因「原則の崩れ」に着目した独自手法「原則整備へのアプローチ」と保全業務の標準化やデジタル化の取り組みについても実践例に基づき解説している。デジタル化では実用性を投資対効果の面から、ものづくり現場とAIによる音声認識の親和性の高さを紹介し、これからの時代の保全体制と人材育成についての考えが述べられている。
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プリズム
- ①マクニカの室崎憲太氏には、「工場DXで実現する生産部門全体でのデータドリブンな生産プロセス」と題して執筆いただいた。製造現場のデータ活用が「ただの可視化」で終わらず、生産部門全体で推進するための考え方とデータプラットフォームの効果を提示している。生産部門が持つそれぞれの機能・役割を意識し、「誰が、いつ、何を確認し、どう行動するか」を明確化し、データ活用を具体的な業務に落とし込むことが重要であることを説明している。
- ②日本プラントメンテナンス協会から、「どれだけ設備を使いこなしていますか?~指標から考える設備管理・保全のニーズ~」と題して執筆いただいた。TPMとその主要指標である設備総合効率(OEE)を解説している。TPMにより設備総合効率は導入前の約60%から約80%へ向上することが約1,600事業所のデータから報告されている。一方で、指標を正しく理解し、社内で標準化する重要性を述べている。
おわりに
本号では、各社の泥臭く地道な取り組みを通じて、設備保全の本質が浮き彫りになった。紹介したいくつかの「新たな」取り組みもこれまでの延長線上で取り組まれていた。このことは、これまでの設備保全をあらためて見直し、現場に根付かせることが重要であることを示している。一方で、急速な環境変化の中で従来とは異なる対応もまた求められており、これまでの延長線上の取り組みで足りるのか、各社が検討を迫られている。自社の現場でこの課題と向き合い、実践を深めることを期待したい。