QCD改善の先にある付加価値創出へ
2025年12月 / 341号 / 発行:2025年12月15日
目次

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巻頭言
新たな機会と価値の創出をめざすIE活動
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特集テーマのねらい(特集記事)
QCD改善の先にある付加価値創出へ
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論壇(特集記事)
IEの広がり、現代の日本とIEの活躍
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ケース・スタディ(特集記事)
付加価値創出に向けての「人財創出」「時間創出」
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ケース・スタディ(特集記事)
QCD改善のその先へ
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ケース・スタディ(特集記事)
中部電力グループのかいぜん活動の推進について
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ケース・スタディ(特集記事)
組織横断型チームによる改善活動の進め方と改善事例
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会社探訪
外国籍人材と働く現場から-エバー(株)-
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コラム(136)
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協会ニュース
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連携団体法人会員一覧
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編集後記
特集テーマのねらい
現場のIE活動に込められた努力は、企業の付加価値として正当に評価されているだろうか。
日本の製造業を支えてきたIEは、ムダの排除、工程の合理化、標準化、そしてQCD向上といった現場改善の手法として頻繁に活用されてきた。しかし、IEの本質は単なる現場改善にとどまらない。人・モノ・設備・情報といった経営資源をどう活かすかという、全体最適の視点こそが、IEの本質である。
トヨタ自動車元副社長・大野耐一氏が「IEは経営に直結する全社的な製造技術」と語ったように、IEは現場と経営をつなぎ、企業の競争力や収益性を高めるための手段である。
この視点に立てば、現場で日々積み重ねられている改善活動が、どれほど経営の意思決定や収益向上、ひいては付加価値の創出につながっているのかを、改めて問い直す必要がある。日本では納期厳守や高品質の提供は当然とされがちであり、それにかかる手間やコストが価格に反映されることは少ない。短納期の急ぎの注文にも、納期通り・品質通りに対応する企業の努力は評価されず、逆に納期に遅れればペナルティが課される。このような商慣習の下では、企業が一方的に負担を背負い、現場の努力が付加価値として正当に評価されにくくなっている。
また、アフターサービスの充実や人材育成、需要の増減に応じた人員の調整といった地道な取り組みも、企業の競争力を支える重要な要素である。これらは顧客満足や信頼の獲得につながるだけでなく、企業のブランドや将来の収益性を高める「見えにくい付加価値」といえる。小規模な商店や飲食店では、接客の質や店主のこだわりが価格に反映されることもある。これは、見えにくい努力が評価されやすい好例である。しかし、大企業になるほど、現場の努力を価格に転嫁することが強引と受け取られがちになっているかもしれない。価格ありきで、現場の努力が後追いするといった、そんな逆転現象が起きているかもしれない。
こうした構造のもとでは、現場の努力が過小評価され、改善活動への意欲も続きにくくなる。これは、DXやAI導入においても同様である。デジタル技術の活用によって業務効率が向上し、コスト削減が期待される一方で、実際にはデータ整備や人材育成に多大な労力とコストがかかる。これらの投資も企業の付加価値を高める重要な取り組みであり、本来は価格に反映されるべき対象である。
本特集では、こうした問題意識のもと、「現場の努力が価格や経営成果にどう結びつくのか」、「IE活動が企業の付加価値向上にどう貢献するのか」を掘り下げていく。企業が行うIE活動といった「見えにくい努力」をいかに顧客に伝え、価格に反映させるのか。その仕組みの構築が求められている。価格交渉においても、現場努力の価値を顧客に伝え、納得を得ることが重要である。さらに、経営層には、サプライチェーン全体を俯瞰しながら、こうした見えにくい努力を「見える化」し、企業の付加価値を高めていく役割が期待される。QCDの改善は目的ではなく、付加価値創出のための手段である。その成果が適切に価格や利益に反映される構造を構築することが、これからのIEの役割なのかもしれない。
記事構成
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論壇
ティムネットの渡辺丈洋氏に「IEの広がり、現代の日本とIEの活躍」と題して執筆いただいた。
現代の日本は、生産年齢人口の急減により深刻な供給力不足に直面している。この課題を克服するには、単なる労働時間の延長ではなく、1人当たり生産性の抜本的な向上が不可欠である。IEは、人・設備・情報を統合し、最適なワークシステムを設計する手法であり、原単位の低減、バラつきの縮小、少人化を通じて生産性を大きく高めることができる。トヨタ生産方式が製造業から事務領域へと広がったように、改善は全従業員が主体的に関わるほど効果が高くなる。企業は、現場と事務の両面でIEを活用し、ムダを排除し続ける仕組みを築くことで、労働力不足時代において持続的な競争力を確保することができる。
IEはこれからの日本の産業基盤を支えるものであり、全員が同じ方向を向いて取り組むべきと締めくくられている。
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ケース・スタディ
- ①小島プレス工業の二ツ谷尚氏に「付加価値創出に向けての「人財創出」「時間創出」」と題して執筆いただいた。本稿では、小島プレス工業が付加価値創出に向けて進める「人財創出」と「時間創出」の取り組みを紹介している。自動車業界が電動化や国内市場縮小など大きな変化に直面する中、同社は顧客価値向上を目的とした働き方改革を重視している。人財面では、事務技術部門でTPS活動を推進し、若手リーダー育成や2030年に向けた改善ロードマップ策定を通じて改善文化の定着を図っている。時間創出では、CAEツール「PD Advisor」とRPAを連携した自動解析システムにより、業務効率化と設計者の創造的時間の確保を実現した。今後はAI活用や主体性を育む環境づくりが課題とされ、個が輝き顧客に選ばれる価値創出企業をめざす姿勢を示しつつ、全社的変革の重要性を示して締めくくられている。
- ②中村製作所の山添卓也氏に「QCD改善のその先へ~付加価値向上とその融合に向けて~」と題して執筆いただいた。中村製作所は1914年創業の工作機械部品メーカーで、戦後の再設立やリーマンショック後の新分野開拓を経て成長してきた。近年は製造業の空洞化や採用難への対応としてQCD改善を強化している。品質面では新人育成や工程ミス防止、コスト面では稼働デジタル化やCAM導入、動画マニュアルで効率化を推進し、納期面では生産管理システムや管理カメラ、進捗会議により遵守率を向上させた。加えてDXによる稼働見える化や図面管理、SEO・SNSを活用した営業、自社製品開発や工場見学による発信にも取り組んでいる。今後はQCD深化、DX推進、新規取引先開拓、地域貢献を軸に企業価値向上をめざしていくと締めくくられている。
- ③中部電力の石原逸司氏に「中部電力グループのかいぜん活動の推進について~かいぜんを中部電力グループの社風・文化として根づかせ、持続的な成長をめざす~」と題して執筆いただいた。中部電力グループは2017年度にトヨタ生産方式に基づくかいぜん活動を開始し、2023年度から自律的改善をめざす「拡大・変革期」に入った。活動はグループ14社へ広がり、社長直下の推進体制とCKO・DKOの支援のもと全社展開が進んでいる。浸透策としては2019年度から「かいぜんコンテスト」を実施し、現在は年2回開催している。2023年度からは階層別教育を整備し、実践的改善人財の育成を進めている。中部電力ミライズではSalesforceを活用したCRMにより営業の見える化と高度化を推進し、2024年度末までに約7,000件の改善と累計約520億円の効果を生み出し、業務改革と人財シフトを加速させた。今後は自律自走と文化定着による持続的成長をめざす方向が示されて締めくくられている。
- ④リョービの井澤龍介氏に「組織横断型チームによる改善活動の進め方と改善事例」と題して執筆いただいた。リョービの静岡工場は部門最適に陥りがちだった従来の改善活動を見直し、2020年より全体最適を目的とした組織横断型CFT活動を開始した。半年サイクルと定期フォローにより進捗を可視化し、歪不良削減では金型・鋳造・検査・加工が連携して12項目を改善、不良率を3~4%から0.4%へ低減した。女性社員主体の環境改善では、トイレ課題34件を解消するモデルケース整備や清掃・備品管理の標準化を実施し、快適性とコミュニケーション向上を実現した。CFTは多視点の協働により課題解決力を高め、改善の意義と楽しさを共有する組織づくりに寄与していると締めくくられている。
おわりに
本特集では、IE活動を単なる改善にとどめず、付加価値創出へ結びつける各社の取り組みを紹介した。各社は、人財育成や改善文化の醸成を基盤としつつ、デジタル活用と業務の可視化により生産性向上と時間創出を図っている。加えて、全社的なIE推進体制や教育の仕組みにより、IE活動を継続的かつ組織的な活動として定着させている。その成果はQCD向上のみならず、顧客価値や収益力の向上など経営全体の価値創造にも波及しており、企業がIE活動を文化として育て、持続的成長をめざす姿が示されている。
【論壇】IEの広がり、現代の日本とIEの活躍
ティムネットの渡辺丈洋氏に「IEの広がり、現代の日本とIEの活躍」と題して執筆いただいた。
現代の日本は、生産年齢人口の急減により深刻な供給力不足に直面している。この課題を克服するには、単なる労働時間の延長ではなく、1人当たり生産性の抜本的な向上が不可欠である。IEは、人・設備・情報を統合し、最適なワークシステムを設計する手法であり、原単位の低減、バラつきの縮小、少人化を通じて生産性を大きく高めることができる。トヨタ生産方式が製造業から事務領域へと広がったように、改善は全従業員が主体的に関わるほど効果が高くなる。企業は、現場と事務の両面でIEを活用し、ムダを排除し続ける仕組みを築くことで、労働力不足時代において持続的な競争力を確保することができる。
IEはこれからの日本の産業基盤を支えるものであり、全員が同じ方向を向いて取り組むべきと締めくくられている。